討伐63
ともあれ、なんとか傷を負うこともなく相手の魔術を一つ攻略することができたのは大きい。《アースウォール》をあんな風に使ってきたことには驚いたが、一度体験したのならもう大丈夫だ。次はもう動揺しない。
それと、一つ相手の失敗について気づいたことがある。
先程魔術を行使した時に魔力を俺の跳躍先へ移動させていたが、あれだけ正確な魔力操作ができたのならそいつはかなり近くにいるということだ。
周囲に視線を巡らせる。
少し時間を取らされたせいで方向転換を済ませたワイルドボアの群れが再度こちらに向かって走り出してきたが、その群れの後方に一体、他の個体とは違いこちらに向かってきていないやつを発見した。
見た目には他の個体との違いは分からないが、そいつは俺と目が合うと身を翻して森の中へと逃げ出そうとする。
「お前かぁ!」
叫んで、瞬間的に腰のナイフを引き抜き《力の収束》を発動させ投擲を行う。
風を裂く音と共に一直線に敵へ向かい飛ぶナイフは、しかし、突如として地面から出現した土壁に防がれてしまった。
「ちっ」
やっぱりそう簡単にはいかないかと舌打ちを一つして、それを追い掛けるために走り出すが、それを阻むように襲い掛かってくるワイルドボアの群れ。
「邪魔だ!」
苛立ちも隠さずに声を上げ、盾を構えてそのまま正面の敵に突っ込む。
そして、敵と衝突しそうなほどに接近したところでその懐に飛び込むように身を屈めると、顎の下からかち上げるようにして相手の体を力ずくで起き上がらせその腹部に《力の収束》を発動させた蹴りを叩き込む。
すると、くの字に折れ曲がったワイルドボアの体が後続を巻き込み、先程と同じように血と肉が散らばった血生臭い一本道ができたので、肉塊を足場にして先を急ぐが、それを追ってくる他の個体が鬱陶しい。
「クレアッ!カイルッ!」
だから、大きく声を上げて二人に助けを求める。
「敵のリーダーを見つけた!援護頼む!」
「おう!任せろ!」
『……なにをすればいい?』
「俺を追ってきてるこいつらが邪魔臭い!どうにかしてくれ!」
端的にそれだけを告げると、速度を上げて全力で走り出す。
リーダーを見つけたのなら魔術による介入はないので、こいつらの相手だけなら今のカイルでも大丈夫だろう。クレアもこいつらだけを相手にするならそこまで消耗することもないし、これ以上温存しておく必要はないだろう。だから、このあとの戦いの邪魔になりかねないこいつらの相手は二人に任せる。
「よっしゃ!」
『……了解』
心強い二人の返事を背後から受け、俺はあいつとの決着をつけるために鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れる。