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オーク2

 完全に迷子になってしまいました。

 しまったな。オークを見つけることにばかり気をとられて帰り道のことを完全に忘れてしまっていた。迂闊だった、これまで森に入る時は道案内はミリオに任せきりにしてたからそこに考えが及ばなかった。オークを討伐し終わって一区切りがついた今になって思えば、道中に目印を刻み付けてくるなり何かできることはあったはずなのに緊張のあまり忘れてしまっていた。

 まぁ、一人では初めての冒険だったわけだから仕方ないといえばそうではあるけど、いつまでもそうは言ってられない。首飾りを持って帰れば冒険者としての道が開け、そうなればパーティーを組んでの行動をする場合もあるだろう、そんな時に今と同じような失敗をしてしまえば自分だけでなく仲間の命まで危険に晒してしまう恐れがある。そうならないためにはいくら緊張状態であろうともやらなければいけないことの手順ぐらいはきちんと踏めるようにならなければ、パーティーに迷惑をかけてしまう可能性がかなり濃厚なので、戦闘以外の部分にも気を配る程度の余裕は常日頃から持てるように努力しなければ。

 慣れの問題や役割分担によっては俺が出る幕はないのかもしれないけど、これぐらいの当たり前のことぐらいは全員ができるに越したことはないしな。

 さて、とりあえず帰る心配をする前に槍を回収して、このオークの死体を埋めるとするか。…穴を掘るのも一苦労しそうだけど仕方がない。

 あー、こういう時土魔術が使えれば一瞬で終わらせられるのに。無い物ねだりをしてもしょうがないけどあれが使えると使えないでは効率が段違いだから少し愚痴っぽい考えが浮かんでしまっても許してほしい。

 まぁ、ステータスが上昇している間に早く終わらせよう。闘気は戦闘が終わった後に使用を止めたけど、まだ他の強化は残っている状態なので今なら数分もあれば穴を掘ることができると思う。そのために一応スコップも持ってきたしな。…子供が砂遊びをする時に使うような小さいやつだけど。

 というかこの世界、スコップが存在しなかったからこう見えてアンドレイに作ってもらった特注品だ。

 あいつもこの半年で少しずつ自由に鍛冶をやらせてもらえるようになったみたいでこういう時のために頼んで作ってもらったんだ。…金はどうしたって? 安心しろ、今回はちゃんと俺が東の森で魔物を倒して手に入れた金で払ったからな。そのせいでもう素寒貧すかんぴんになったけどな。

 …さて、やるか。





 穴を堀り終わり、オークの死体を埋め土を被せて処理を終えた後、とりあえず歩き始める。待っていても助けが来るわけでもないので行動するしかないからな。

 だが、オークを倒し順調に事が済んだことによって少し警戒が緩んでいたのかもしれない。それが俺の近くまで来ていることに気がつかなかったのだから。

 頭の中で危険察知が奏でる警鐘が大音量で鳴り響いた。

 …後ろに何かいる!

 振り向いてる暇はない、全力で前に跳べ!

 直後、今まで俺がいたその場所に何かが叩き込まれた。

 轟音が鳴り響き、地面が爆ぜ、土や石、音や衝撃が俺の体に打ち付けられる。いったい何が起こった?

 前方に二度転がり受け身を取り、即座に後ろを振り返りそこにいたものの姿を視界に捉えた。


 「…おい。なんか、さっきよりデカくねぇか」


 そこにいたのは先程倒したオークより一回りは体型が大きく逞しい、二体目のオークだった。

 体が大きいだけでも脅威なのだが、その手に握られているものを見て更にそれが掻き立てられる。俺の身長よりも大きく二メートル以上はありそうな鉄塊を両手で握り締め、こちらを興奮したように息を荒らげて睨み付けているように見える。

 先程のオークは遠目にしか見ていないが、こんなに荒ぶってはいないように見えた。それに引き換え何故このオークはこれほどまでに興奮しているのかは分からないが、どうやら完全に俺は狙われてしまっているみたいだ。

 正直逃げたいのはやまやまだが、今現在絶賛遭難中の身としてはこれ以上出鱈目に動き回りたくないというのが本音だ。

 なので、ここでこいつを何とか倒しておきたいところなんだけど、さっきオークと戦った時は不意討ちを成功させたのがかなり大きかったので、まともに正面から戦って無事で済むかというと正直分からないところはある。一応切り札的なスキルがあるにはあるが、あれは本当に最後の手段だ。あれを発動させれば勝つこと自体は容易かもしれないが問題はその後の帰路を無事に踏破できるかということだが、まず無理だろう。なので、あれを使うのは無しの方向でいきたいけど、どうするか。

 正面はあの鉄塊の一撃が怖いからやめておくとして、左右に回り込むにしてもリスクが高いことに変わりはない。

 …一度物陰に隠れて奇襲を仕掛けるか?…うん。それが一番安全そうだしそれでいこう。

 とりあえず魔術を使ってる暇はないので今は疾駆だけを発動させて、木々の間を駆け抜けオークの視線を振り切り、茂みの裏に体を伏せ姿を隠しながらオークの姿を盗み見る。

 オークは辺りをキョロキョロと見回した後、その大きな鼻を数度上下させ匂いを嗅ぐような仕草を見せた後に、一直線にこちらに向かい走ってきた。

 は!? 匂いで居場所がバレた? というかこのまま伏せたままじゃ危ない!

 伏せていた体を起こすと身を翻し、今度は木の陰に身を潜めオークの姿を見やる。

 だが、先程と同じように匂いで居場所がバレたのか迷いなくこちらを目指して突き進んでくる。

 これじゃ、何度やったところで結果は同じだろう。なら奇襲作戦は中止だ。こうなったらあの鉄塊での攻撃をかわして反撃を狙いにいく。さすがにあれだけ重量がありそうなものを軽々と振り回せるはずはないだろうし、能力を向上させれば対処できるだろう。

 そう決めて、俺はスキルと魔術で身体能力を高め、オークの接近に備える。

 そして、あと数歩の距離まで迫ってきたところで俺も地面を蹴りオークのもとに飛び出す。

 俺が飛び出したことで一気に互いの距離は詰まり、オークがその無骨な鉄塊を上段から叩きつけようと振りかぶり、その一撃を放つ。

 圧倒的圧力を感じる一撃がうねりを上げて俺に迫る。

 当たればその時点でミンチになることは確定なのが手に取るように分かるほどの威圧感。もちろん受け止めることも不可能だ。なので全力で地面を蹴り、オークの真横をすり抜けるように走り抜ける。

 その瞬間背後からまたあの轟音が聞こえた。直後に俺は体の勢いを殺すために地面を足裏で削りながらオークの背中を確認。そして、勢いを殺しきった直後に跳ね飛ぶようにオークに接近する。走りながら背中から槍を引き抜き、全力の一撃を込めた突きを放とうとしたが、危険察知がけたたましく鳴り響いたので動きを中断、もう勢いは止められないのでそのまま全力で地面に滑り込む。

 直後に俺の上をとんでもない速度の鉄塊の横凪ぎが通り過ぎた。

 …こいつ、動作が速い。その見た目と武器で動きが鈍重だと決めつけていたが、とんでもない、むしろ今まで見てきた魔物の中で一番速い。

 とにかくまずは距離を取らないと。体を起こし全力で後ろに跳び下がった。

 まずいな。一撃を入れるどころか避けるだけで精一杯だ。

 もっとギリギリを攻めれば反撃を入れれないこともないが、さすがにあの鉄塊に対してそんな危険を冒したくはない。

 どうする? はっきりいってこのまま戦っても勝ち目は薄い。逃げるだけなら可能だろうが、森の更に奥に入り込んでしまうリスクがあるし、あの鋭い嗅覚によって追跡される可能性もある。

 …やっぱり戦うしかないか。でもどうやってこいつを攻略する? 厄介なのはあの鉄塊だ。動きの速さだけなら速いとは言っても全然対応できない速さではないけど、あれのせいでリーチが伸びてとんでもなく戦いづらくなっている。あれをどうにかすればかなりやり易くなると思うんだけど。とてつもなく重量がありそうだし、片手でも握り手を斬りつければ…腕を斬り落とすことができればどうにかなる可能性はあるけど、それを狙うには直前まで攻撃を引き付けてからかわしつつ反撃をピンポイントで腕に当てないといけない。そんな芸当俺にはできない…いや、あれを使えばもしかしたら。でも、どうだろう。完全に賭けになるけど、たぶんこれが一番何とかなる可能性が高い。けど、リスクは結構高い。こんなことならもう少しちゃんと検証しておくんだった。

 …やってみるか。どうせやるなら分の良い賭けの方がいいし。

 よし、ならもう一度あいつが仕掛けてきた時が勝負だ。

 鉄塊を振り切り体が僅かに流されていたオークだが、体勢を立て直すと先程と同様にこちらに接近してくる。

 今度は俺は動かない、その一瞬のために今はできるだけ集中しておきたい。

 オークが迫り、あと数歩の距離までやってきた。

 まだだ。集中しろ。

 オークが肉薄し、鉄塊を振り上げ、そして、振り下ろし、放ち、頭上に巨大な鉄塊が迫る。

 今だ!


 『アクティブスキル《思考加速》発動』


 その瞬間オークの動きが急にスローモーションになる。

 急げ!このスキルを使った直後に最低限の動きを維持するためには一、二秒が限度だ。早く、速く動け!

 頭上に迫った鉄塊を軽くかわし、オークから一歩距離を取る。そして、その場で腰に刺した小剣を引き抜き、下段の構えを取り、上空へ斬り上げ、オークの手首に狙いを定めて、思考加速を停止させる。

 思考加速を停止させた直後、体感時間が元に戻り、激しい頭痛が襲うが、後は力の限り小剣を振り上げるだけでいい。狙いはもう済ませてある。


 「お、らあぁぁっっ!!」


 オークが鉄塊を振り下ろす動作に合わせた俺の斬擊が、オークの手首を断ち斬り、地面に叩きつけた鉄塊は轟音を響かせた後、握り手に片方の手首を残したまま木々の合間に跳ね飛んでいった。


 「ガッァァッ…!?」


 手首を跳ね飛ばされたオークは痛みに負けて、残っている片方の手で切断された手首の断面を押さえて踞る。手首からは押さえていてもおびただしい量の血が流れ出して、止まることなく溢れ出し続けている。

 このまま放置してもこのオークは死ぬだろうが、放置してアンデッドになられても困るので止めを刺して埋めるべきだろう。

 俺はオークに近づき、小剣を上段に構えて脳天に一撃を振り下ろそうとしたその時。


 「グァァッッ!」

 「!?」


 踞り抵抗する気配を見せていなかったオークが地面を蹴り、俺に肩から突進してきた。

 焦ってそのまま剣を振り下ろそうとしたが、もう間に合わなかった。


 「っが、はっぁっぅ…!!」


 まるで全身を巨大な鉄球で打ち据えられたような衝撃が襲い、体は吹き飛び背中から激しく木に叩きつけられ呼吸ができなくなる。衝撃ほど痛みは大したことはないが、それで脳を揺さぶられ呼吸ができないことで意識が朦朧としている。

 視界も朧気にしか映っていないが、オークが先程の鉄塊を片手で拾い引摺りながらこちらに歩みを進めてくる。

 体が動かずまずい状況だとは思うが、意識がはっきりとしないせいで危機感が上手く働かない。

 あー。やっちまった。魔物が死の間際に最後の抵抗を見せることは少し前に見たばかりだというのに、完全に下手を打ってしまった。情けない。

 オークが目の前までやってきて俺を見下ろす。相変わらず手首からは血を流し続けているが、死ぬ前に俺を殺そうってわけか。

 くそ。なんてこった。せっかくあと少しで冒険者になって、色々目標にしてたこともあったんだけどな。

 片手に逆手で握った鉄塊を持ち上げる、それで俺のことを潰すつもりなのだろうか。

 それを意識した瞬間、体の奥底から熱い何かが湧き上がってくるのを感じた。…これは不屈か?ははっ。そうかこれが意志の力か。さっきまで意識が朦朧として完全に諦めかけていたけど、不思議と意識がはっきりとして何とか少し体が動かせそうな気がしてきた。

 体が動くなら、まだ諦めるには早すぎる。逆転のための一手はまだ残されている。

 震える手で背中に下げているナイフを何とか引き抜く。ここからは時間との勝負だ。このオークがせっかちな性格じゃないことを祈ろう。

 引き抜いたナイフで俺は自分の腹を突き刺した。


 「ぐっ…っぅぅ!?」


 それを見たオークは怪訝そうな顔をしているように見えた。

 そうだ、戸惑え。今は少しでも時間を稼ぎたい。

 突き刺したナイフを抜き、また刺す。抜き、刺す。抜き、刺す。強靭な意志力を盾にそれを幾度か繰り返し、その度に傷口から血が流れ出し徐々に体が熱を失っていくが、傷口は燃えるように熱い。

 オークは俺の意味不明な行動に疑問を抱いて少し観察を続けていたようだが、とうとう痺れを切らして、持ち上げた鉄塊を俺の頭の上で止め、そのまま一気に押し潰そうと力を込めたが、少し遅かったな。


 『パッシブスキル《限界突破》発動。パッシブスキル《起死回生Lv1》発動。肉体の損傷が一定の基準に達しました。《起死回生Lv1》が《起死回生Lv2》になりました』


 オークが振り下ろした鉄塊を俺は片手で受け止めた。


 「!?」


 ようやく発動しやがったか死にスキルめ。正直このスキルを使うつもりなんて更々なかったんだが、まぁ仕方ない。使わなければ死んでいた。なら少しでも生き残れる可能性がある方を取りに行く。

 さて、これが発動したからにはもうお前には何もする暇も与えずに終わらせてやる。

 俺は受け止めた鉄塊を片手で押し返すと、体を跳ね起こす。そして、オークの顔面に右の拳を叩き込む。それだけで、オークの顔面は粉々になり、辺り一面に肉片が飛び散った。

 後始末をするのが面倒なので胴体は地面に叩きつけ、陥没した地面に埋め込んだ。

 はい、終了。うん、何だこれ? いくら何でも強すぎないか? 完全にチートじゃねぇか。まぁ、その分代償はかなり大きいけどな。

 …ふぅ。さて、何とかオークは撃退できて、生き延びることができました。でも、この傷を治す手立てを俺は持っていません。さて、問題です。俺はどうやって生き延びればいいでしょうか?

 …誰か、その答えを下さい。 

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