討伐59
我ながらなんとも下衆な手を思いつくものだと呆れ果てる。
本当にいつからこんなに性格が歪んでしまったんだろうか。目的のためならなんでも行う覚悟はあるけど、ここまで残酷なことを平気でこなせるような人間じゃなかったと思うんだけどな、俺は。
まぁでも、こういうことをする度にいちいち躊躇っていたら埒が明かないしこの変化も悪いものではないのかもしれない。分からんけど。
そんなことを考えながら作業を続けているといつの間にか馬車の近くにやってきていたので、丁度いいと思いクレアたちになんで俺が今こんなことをしているのかを《思念会話》で説明する。
『ってわけで、もしかしたらワイルドボアの群れが俺に襲い掛かってくるかもしれないけど、そいつらの対処は俺に任せてクレアとカイルにはそっちに敵が流れていかない限りは待機しておいてほしいんだ』
『いや、なに言ってんだよ俺はもう大丈夫だって!さっきまでは少しふらついてたけど今はもうぴんぴんしてるぞ、ほら』
そう言ってカイルはその場で飛び跳ねてみせるが、微妙に左右に体が流れてしまっているので、まだ体が本調子じゃないことは明らかだ。
『どう見てもまだふらついてるよな。そんな状態じゃ敵の魔術を避けるのは難しいだろうし、おとなしくしとけ』
『ちっ』
『舌打ちすんな。言っておくけど勝手な真似したら本気で怒るからな。絶対に飛び出してきたりするなよ?』
『……分かったよ』
納得はしていないようだが、それでも不承不承といった感じにカイルは頷いてみせた。
『アスマ君』
『ん、どうしたクレア』
カイルとの話が終わるのを待っていたんだろう。そのタイミングでクレアが滑り込むように声を掛けてきた。
『無理だけはしないでね。駄目だって思ったらすぐに私たちに声を掛けて。それだけ、約束して』
『あぁ、約束するよ。別に俺だって無謀な挑戦をしたいわけじゃないからな。危なくなったらすぐに助けを求めるから、その時はよろしくな』
『うん』
『へーい』
二人からの返事を聞いて緩みそうになる口元を抑えて、《思念会話》を解除すると意識を周囲へと向ける。
どこからかこちらを覗き見しているやつらがいるのなら、もういつ痺れを切らして襲い掛かってきてもおかしくはない。
どこから来るのかも分からないし、どれだけの数が押し寄せてくるのかも分からないが、どんな場合でも対応できるように集中力は途切れさせないようにしておかないと。
ここからが本番なんだからな。