討伐56
『それじゃあ、俺はユーリとリリアたちを合流させてさっきの話を伝えたら、とりあえずさっきナイフを投げ込んだところを確認しにいってみるから』
『了解。気をつけてね』
『おう。……って、あ。そういえば、カイルはこっちに来なくても大丈夫なのかな?』
『あ、聞いてみるからちょっと待ってて』
そう言って、クレアは俺が話した内容をカイルに伝え、そのうえで安全な場所に避難するかどうかという選択を提示していた。
すると、それを聞いたカイルはこちらを見上げて一言「いらねぇっ!」と大きな声で言って、先程までクレアがそうしていたように周囲の警戒を始めたようだった。
『いいって』
『あ、うん。聞こえてた。えっと、まぁ、それだけ元気があれば大丈夫だろってことで、さっき言った通りに動き始めるから。またあとでな』
『うん。またあとで』
ひとまずは話も終わったということで、軽く手を上げてクレアに別れの合図を送ると、《思念会話》を解除してユーリの下へと戻っていく。
「お待たせ。それじゃあ、もう一回ちょっと失礼して」
先程体を起こしてやった時と同じように断りを入れるが、今度は肩だけでなく膝裏にも手を差し込んでユーリ抱え上げる。
「どこいくのー?」
「リリアたちのとこ。とりあえず事態が解決するまではそこで待っててくれ。終わったら迎えにいくから」
「んー、了解。ごめんね、手伝えなくて」
「いいって、気にするな。病み上がりなんだから今はゆっくり休んどけ」
優しく肩を叩いてそう言うと、自分の体調が悪いことは重々承知しているからだろう、ユーリは素直に「うん」と言って頷いてみせた。
そうして、ユーリを抱え上げたまま先程入ったのとは反対側にある御者台を伝って馬車の中に入ると、入ってすぐのところにオリオンが仰向けで倒れて気絶しているようだった。
リリアの姿はその奥にあった。石槍に背中を預け、まるで祈りでも捧げるように顔の前で手を組み必死でなにかを願っている様子だったが、馬車に足を踏み入れた時の物音に気づき、閉じていた目蓋を開いてこちらに視線を向けてきた。
「……あっ」
そして、俺の腕に抱えられたユーリの存在をその視界に捉えた瞬間、呆然としたような声を漏らした後、くしゃりと顔を歪ませてその瞳から大粒の涙を溢した。
「よう、遅くなって悪かったな。けど、なんとか無事に連れ帰ってきたぞ」
「……あ……ユー……リ」
「うん、ユーリだよー。心配掛けちゃってごめんねー。もう大丈夫だから」
「……ひっく……う……う……うぇぇ」
心の底からずっとユーリのことを心配していたのだろう、リリアは両の掌で顔を覆うと、肩を大きく震わせ、声を上げて泣いてしまった。