討伐54
助けられたかもしれない命が目の前で散ってしまったわけだからそれも仕方のないことだろう。
ただ、一つだけ確かに言えることがあるとすれば、それは決してユーリが悪いわけじゃないということだ。
見ず知らずの他人を助けようとしたユーリの行為は、人によっては馬鹿なことをしたと思う者もいるだろうが、危険を顧みず他者のために尽くすことなんて誰にでもできることじゃない。
自身にも被害が及ぶかもしれないという場面で咄嗟にその選択ができたことは素直にすごいと思えるし、尊敬に値するものだ。
俺がその場にいたとしても、間違いなく逆の選択をしていただろうことは容易に想像できる。
まぁ、それで瀕死の重傷を負ってしまったのは褒められたことではないが、全力で自分の意志に従ったその選択自体は間違いではなかったと思える。
もし、なにも行動を起こさず見殺しにしていれば、その後悔は今よりももっと大きく心に深く刻まれていたことだろう。やらずに後悔するよりは、やって後悔するほうが気持ちとしては随分違ってくるはずだ。
それに、自分に足りないものを発見することにも繋がるだろうしな。
だけど、それをユーリに伝えるつもりはない。たぶん、今なにかを言ったところで、それが彼女に届くことはないと思うし、心の整理がつくまでは下手に声を掛けるよりはそっとしておいたほうがいいはずだ。
なので、ひとまず小難しい思考は頭の隅へと追いやって、ユーリ、リリア、オリオンをクレアたちの下へと降ろしてやろうと考えたところで、一つの懸念が頭をよぎったので、ユーリに「ちょっとごめんな」と断りを入れて屋根の縁を覗き込みクレアの姿を見つけると、《思念会話》を発動させる。
『クレア。ちょっといいか?』
『アスマ君? どうしたの?』
『あぁ。えっと、まずは朗報なんだけど、リリアとオリオン、それにユーリもとりあえずは無事だったよ。ユーリだけはちょっと怪我をしてたけど、シャーロット先生から貰った回復薬で治したから安心してくれ』
『わぁ! やった! 本当だ、アスマ君の言った通りだった!』
……確かに言われてみればその通りだが、適当に言ったことが的中しただけなので素直には喜びづらいところがある。
『お、おう。だろ? って、まぁそれはいいんだけど、ちょっと相談があってな。話を聞いてもらってもいいか?』
『あ、うん。分かった、任せて』
……任せて、か。
あのクレアがそんな風に言ってくるなんて……うん、なんか感慨深いな。