討伐53
「それじゃあ、ちょっと失礼」
断りを入れてユーリの肩の下へ手を差し込むと、ゆっくりとその体を起こしてやる。
そして、まだ体を動かしづらそうなユーリに代わって口元まで瓶を持っていってやり、その中身を少しずつ流し込んでいく。
「……ん……ん……んく……ぷぁっ」
「よしよし、お疲れさん。どうだ、気持ち悪くなったりしてないか?」
「……んー、大丈夫。ありがとー、アスマ君」
「おう、どういたしまして」
意識を取り戻したことで体の調子も徐々に快方に向かっているのか、先程に比べると声に張りが出てきたように思える。
ただ、それでも血が足りていない状態であることに変わりはないので、顔色は依然として血の気が引いたように青白いままだ。
増血薬があればよかったんだが、あれは一定の保存環境がないと品質が劣化してしまうので、手に入れるためにはどこかの薬屋へ行かないといけない。
なので、今優先すべきことは敵対生物の排除と、村へ引き返すための足の確保だ。
足に関しては最悪歩きでも構わないが、使えるのであればこの馬車を再利用したいとは思っている。適当に穴を塞げば村までの道のり程度は持つだろうし。
馬も宙吊りにはなっているが、幸い馬具は体を覆うようにして着けられているものなので、長時間このままで放置しなければ馬車を引けなくなるということはないと思う。
でも、そうなると馬を操作する者が必要となってくるんだが、この高さから頭を下にして落ちた御者はさすがに無事ではないはずだ。
高レベルの者なら、この高さから落ちたとしてもなんとか着地することができるだろうが、あの御者からはそういった気配はまるで感じなかったので、たぶんすでに事切れているだろうから、操作できるやつがいなければこれは諦めよう。
となると、あとは敵についてだけど……。
「ねー、アスマ君」
この先のことについて思案していると、ユーリから声が掛かったので、一度思考を中止してそれに答える。
「ん? どうした?」
「他の人たちは、どうなったのー?」
「あぁ、皆無事だよ。クレアもリリアもカイルもオリオンも」
「……それ以外の人は?」
「あー、と。他の人たちは、うん、助けられなかった」
「……そっかー、そうだよねー。うん、しょうがない、よね」
そう言ったユーリは初めから俺の返事を予想していたのか、すぐに納得するように頷いてみせたが、その瞳は涙で濡れているようだった。