討伐51
先程と同じようにユーリの胸元に触れると、自身の呼吸を止めて全神経を指先に集中させ、更にスキルを発動させる。
『アクティブスキル《感覚強化》発動』
これまでにほとんど活用したことのない触覚を強化することで、どんな些細な脈動さえも見逃さないようにする。
その瞬間、体を撫でていた風が痛いぐらいにはっきりと感じられ、身につけている装備の数々やその締めつけがとてつもなく鬱陶しく感じられるが、その一切を無視して指先にのみ意識を向ける。
改めて意識することでその体の冷たさにびっくりさせられるが、それすらも無視して体の奥を探るようなイメージで更に神経を集中させていく。
「…………っ!!」
そして、眩暈を起こしそうなほどに集中力が高まった時、ついにそれを確認する。
かなり弱々しくはあるけど、間違いない。今のは確実にユーリの脈が打つ感覚だ。
それを確かめたのなら、もう遠慮する必要はない。
すぐに《感覚強化》を解除すると、ポーチから回復薬を取り出して、その中身をユーリの傷口へ流し込んでいく。
すると、体内で肉や臓器が激しく痙攣するような動きをみせ、ぐちゃぐちゃだったそれが正しい形に組み立てられるかのように再生されていく。
その光景に気味の悪さを覚えるが、それと同時にこれだけの回復力を発揮してくれることに頼もしさも覚える。
だが、その効果も完全なものではないので徐々に傷が修復される速度が緩やかになってきた。
なので、もう一度ポーチへ手を伸ばすと二本目の回復薬を取り出して、その半分ほどを振り掛けるとまた再生力が復活し、目に見える傷は全て完治したように思える。
「……はぁ」
傷を塞ぎ終わったこともあり、これ以上外傷による状態の悪化が進行することはなくなったということで安堵の溜め息が漏れる。
ただ、それでも未だに予断を許す状況ではないので油断はできない。
個人的な感覚としては、回復薬は体に振り掛けるよりも飲んだほうが効果があるような気がするのでそうしたいところではあるんだが、意識がない相手に液体を飲み込ませるのは危険なことなのでそれはできない。
なので、ひとまずは自発呼吸を促すために心肺蘇生法を試みたほうがいいだろうとユーリの頬に触れた時。
「……けほっ、けほっ、けほっ!」
と、体を跳ねさせて咳き込み、閉じられていた目蓋がゆっくりと薄く開かれた。
「ユーリ!?」
「……」
呼び掛けてその顔を覗き込むと、虚ろな目でこちらを見返してくる。
そして、徐々に焦点が合いこちらの存在を認識すると「……ア……スマ……君」と、聞き取るのが難しいほどにか細い声で俺の名前を呼んできた。