オーク
さて、西の森に侵入成功しました。これより状況を開始する。
…なんて冗談言ってる場合じゃないのは分かってるけど、一人で魔物の棲息地を探索するのは初めてだから緊張と心細さがやばいんだよ。多少ふざけたことを考えてるぐらいじゃないとやってられんわ。
まぁ、頭の中ではふざけたりしてても体の方は警戒心バリバリで索敵してるから問題はないはずだ。心と体の温度差は著しいが誰だってそういう一面を隠し持ってるものだと俺は思っている。たとえどれだけ真剣な顔をしていようとも頭の中ではエロいことを考えていたりするやつなんて割といると思うんだ。そういう経験は俺にもある。事細かに説明するのは恥ずかしいけど、コンビニでバイトしてた時はちょっとエッチな格好をした客が来たら無反応を装いつつもかなり悶々としてたもんだ。ああいうのって女から見たら一発で見抜けるっていうけど本当なのかね? …何を考えてるんだ俺は。さすがに思考が脱線し過ぎだ。
にしてもあれだな。一人だと索敵一つを取ってもかなり精神的に疲労が溜まるもんだな。分かってはいたことだけど、冒険者が任務を受ける時はパーティーを組む理由がまざまざと思い知らされるようだ。まぁ、こういう経験を積んでおくことも大事なことには違いないし文句はないけどな。
でも本格的にソロで活動する場合は索敵スキルとか隠密スキル辺りがないとかなり厳しそうだけど、この世界のソロ冒険者たちはその辺どうやって対処してるんだろ? 少なくとも俺にはできそうもないから、俺はおとなしくパーティーを組んで活動するつもりだけどな。簡単な任務ならソロでもいいかも知れないけど。
そんなことを考えてる間にも歩を進め続けてそこそこ歩き回ってはいるけど、まだ一度も魔物には遭遇していない。無駄に戦闘して疲れるのも嫌だからそれはそれでいいんだけど、未だにオークが残した痕跡すら見つけられていない。
ミリオいわく、オークの雄は雌に求愛行動として自分の腕っ節の強さを見せつけるために小型の魔物を虐殺したり木々をへし折ったりと、そうした痕跡を自分の縄張り近くに残す習性があるらしく、オークを探す場合はそれを目印にすればいいと今朝教わった次第だ。
最初は何で昨日じゃなく今朝になってその話を教えてくれたのか謎だったけど、聞けばこの痕跡は本来オークを探すためのものではなく、この周辺にオークがいるという警戒を促すための痕跡として周知されているため今朝までその考えに思い至らなかったのだそうだ。まぁ、確かに発想としては完全に逆のものだから思いつかなくてもしょうがないけどな。むしろそういう固定観念があるのによくその答えにたどり着けたもんだと感心したわ。流石、我が恩人にして先輩にして家主にして友人だ。…脛を齧りっばなしですまんね。
…あ。とか考えてたらそれっぽいものを発見した。…おぉう。これはゴブリンの死体か? 何か体中が変な方向に捻じ曲げられてるし、引き千切られたのか首が向こう側で潰れてる。
うわぁ。惨いことするな。これがあいつらの求愛行動なのか。うーん、こんなの見せられたら普通はドン引きしそうなもんだけど、オークの雌的にはこれがときめきポイントなのか? 分からん種族だ。
その後、その近くを捜索するとへし折られた木々を見つけた。…幹の太さが俺の腰ぐらいあるんだけど、こりゃ捕まれたら俺も真っ二つに折られるかもしれないな。気をつけないとな。
そして、痕跡を見つけてから体感時間で一時間ほど探し回って遂にオークらしき巨体を発見した。
グランツさんが言っていた通り、骨の首飾りも着けてる。
にしても、縦にも横にも奥にもでかいな。こんなでかいやつ初めて見た。こりゃ確かに攻撃を通すのは骨が折れそうだ。
オークは先程からどこかへ向かうために歩いているが、こちらには全く気づいていないので不意を突くなら今がチャンスだ。
よし。なら、最初から全力で行く!
「《フィジカルブースト》《フィジカルプロテクション》」
まずは魔術で身体能力と防御能力を上昇させる。
次に、疾駆で敏捷性を上昇。そして、体術の鍛練中に称号《拳闘士》から派生取得したスキル。闘気を発動。このスキルは体内の気を活性化させることにより身体能力を大幅に飛躍させることができる効果を持っているが、使用中はスタミナを普段の倍ぐらい消耗してしまうので短期決戦以外では使用を控えたいスキルだ。
やっぱり効果が高いスキルは代償もそれなりに重いな。でもその分見返りは大きいので使いどころさえ間違えなければ優秀なスキルであることは間違いないから使える場面では積極的に使っていこうとは思っているが。
能力上昇スキルはあと戦士の咆哮が残されているが、このスキルを使うと必然的に相手にこちらの居場所がバレてしまうので、まずはこの状態でオークの足を止める。
背中から槍を引き抜き、投擲の構えに入る。狙うは足首。上手く刺さればこれであいつの戦力を大幅に削ることができるはずだ。
オークの足の動きを観察しタイミングを測る。…今!
体を捻り、腕を限界まで後ろに引き絞る。狙いは投擲スキルが調整してくれるので俺は強化されて力が漲るこの腕を全力で振り抜くだけだ。いけ。貫け!
全身の力を集約させて投げ放った槍は、狙い違わずオークの足首に吸い込まれるように飛翔し、その足首を貫き、見事にオークを転倒させることに成功する。
予想以上の成果だ。…やっぱりこの指輪の効果が加算されてる分良い方向に結果が進んだみたいだ。本当魔法装備さまさまって感じだな。
と、感心してる場合じゃない。今は即刻であいつに止めを刺すことに集中しろ。
もう隠れて行動する必要はなくなった。後は正面切っての闘争で白黒はっきりつけてそれで終いだ。
「おぉぉぉっっ!」
『アクティブスキル《戦士の咆哮》発動』
さぁ、これで更に俺のパワーは強化されたぞ。このまま一気に決める!
オークの背後から駆け出し、即座にその距離を無くす。
オークは転倒した状態から腕の力で上体を起こすと、背後の俺を視界に捉えようと首を後ろに回そうとして、その首を俺の振るった小剣が断ち斬った。
首は地面に落ち、その切断面から流れた血が地面と雑草を赤く染めていく。
首を斬り落とされた胴体は断面から血を噴き出し、少しの間そのままの体勢で静止していたが、やがて急に腕から力が抜けるように崩れ落ちその巨体の重さを示すような重音を響かせた。
…あれ? どうしてこうなった?
首を狙って斬りつけたのは確かだけど、正直こんな結果になるなんて完全に予想外だ。
剣で斬れる限り斬りつけて、斬れなくなったら素手で戦って、時間を掛けて出血死を狙っていたつもりだったのに、一撃だと?
えぇ…。いや、結果としては最高なんだけど思ってたのと全然違う展開すぎて頭がまだ追いついてない。
…あー。とりあえず、首飾り回収しとくか。
首をはねた時に一緒に飛んでいった首飾りを拾い上げ、腰の革袋にしまう。
と、その時、オークの生首と目が合い、大口を開けて威嚇された。
「ひっ…!?」
うおぉぉっ!? 何だこいつまだ生きてる!? うわ、気持ち悪い、怖い、嫌だ、気持ち悪い!
だが、そのすぐ後、目に見えて瞳から生気が抜けていき大きく開けていた口も今はだらしなく開いているだけだ。
…あー、びっくりしたー。何だよあの生命力。首取れてるのにまだ動くとか完全にホラーじゃねぇかよ。小便ちびるかと思った。まだ心臓がどくどくいってるよ。
でも、迂闊に近寄ってたら噛み殺されてた可能性があるよな。よかった近づかなくて。
…あぁ、目的も済ませたし今日はもう早く帰ろう。何か今ので無駄に気疲れしたわ。
…で、帰り道って、どこだ?




