討伐49
「ねぇ、アスマ君。私、どうしたらいいんだろ? こんなことになるなんて、思ってもみなくて、なにも考えられないよ。ねぇ、教えてよ、アスマ君。私は、どうすればいいの?」
普段の強気は完全に鳴りを潜め、リリアは弱々しい態度でこちらにすがりつくように問い掛けてくるが、そんなものは俺の知ったことじゃない。
冷たいように思われるかもしれないが、今はそんな問答をしている暇はなく、一刻も早く屋上へユーリの状態を確かめにいかなければならない。
だから俺は、その問いに答えることもなく踵を返して──そこで、一つだけリリアに頼みごとをする。
「俺は今から上に登ってユーリの怪我の具合を確かめにいってくる。だから、お前はそこでユーリの無事を願っておいてくれ。それだけでいい。無事なら、あとは俺がなんとかしてやるから」
「え?」
リリアが困惑したような声を上げているが、俺から言えることは他にはなにもないので入り口へと向かい歩を進める。
余計なことを考える暇もないほどに誰かの無事を願い続けていれば、もうそれ以上思い詰めることもないだろう。
それに、人の願いっていうものは案外馬鹿にならないものだ。人がなにかを成し遂げようとするには原動力が必要だが、それはいつだって誰かの願いから生まれるものだ。
願いの強さは思いの強さであり、思いが強ければ強いほど、それはなにかに影響を及ぼし、思いもよらないことを引き起こすための鍵となるだろう。
だから強く願い続けろ。望んでいる未来があるのなら、思いの強さでそれを引き寄せてみせろ。奇跡ぐらい自力で呼び寄せてみせろ。
「ふっ!」
入り口から屋根に手を伸ばし、肺の中に溜まった熱い息を吐き捨てると共に、一気に体を持ち上げて屋上へと身を躍らせる。
地面からそれなりの高さがある分風が強く感じられ、少し傾斜もあるせいでバランスを崩してしまえばそのまま地上まで落下してしまいそうだ。
と、咄嗟にそんな感想が頭をよぎるが、そんなことはどうでもいいと土槍の周囲に視線を向けてみれば、そこに仰向けに倒れているユーリの姿を発見した。
「おい、ユーリ! 生きてるか!」
呼び掛けてみて、その言い方はどうなんだと自分でも思ったが、頭の中に浮かんだ一番手っ取り早い言葉がそれだったから仕方がない。
「ユーリ!」
だが、何度か呼び掛けてみてもユーリからの返事はなく、その体が反応を示すこともない。