討伐46
先程のような不意の攻撃に備えすでに盾の装備は済ませているので、仮に同じ魔術を行使されたとしても今度はあのような賭けに出る必要はないだろう。
っと、そう言えばクレアにその魔術について説明しておくのを忘れていた。ネタが分かっていればどうとでも回避することは可能だろうが、あれは初見じゃかわすのは困難だからな。
「悪いクレア。言い忘れてたけど、あの土槍にはあまり近づかない方がいい。どんな魔術かは分からないけど、敵はあれを破裂させてその破片でこっちを攻撃してくる。だから、警戒は怠らないようにしといてくれ」
『……うん……了解』
クレアはそう言って頷くと、腰から両の短剣を引き抜き、いつでもそれを迎撃できるようにしていた。
クレアなら事前に行使される魔術が分かっていれば、魔刃で魔術を斬り捨てることも可能だろうからこれで大丈夫だろう。
それに、なにかあればいつでも動けるように俺も全力で警戒しているので、今は余計なことを考えず感覚を研ぎ澄ませておく。
だが、できる限りの警戒をしていたにも関わらず、特にこれといった攻撃が飛んでくることもなく、俺たちはあっけなく馬車の下へと辿り着いた。
まぁ、それ自体はいいことなんだが、なにもないとそれはそれで不気味に感じるところはある。
といっても、ある意味ではここからが本番なので気を抜くことはできない。
目の前にある大きな土槍からその破片が飛んでこないとも言えないし、カイルたちがどうなっているかも分からないからな……。
「よし。それじゃあ、とりあえず俺が馬車の中を確認してくるからクレアは周囲の索敵を頼む。なにか異変があったならすぐに俺を呼んでくれ」
『……あ……うん……分かった』
クレアもこちらについてきたかったんだろう。なにかを言いたげな表情でこちらを見上げていたが、別の役割を任せることで有無を言わせないようにして了承させる。
……ごめんな。
心の中でクレアに謝り、真上にある馬車の入り口正面に立つと、《力の収束》を使用して地面を蹴りつけて一気に飛び上がる。
そして、入り口の縁へ手を掛けると、体を持ち上げて馬車の中へと入り──直後に鳴り響いた《危険察知》の警鐘に突き動かされる形で手にした盾を掲げると、重い一撃が襲い掛かり、その衝撃で馬車の外へと押し出されてしまう。
「うおっ!?」
踏ん張りが利いていない状態で攻撃を受けてしまったので、上半身が後ろに倒れ背中から落下してしまう。
「んのっ!」
ただ、そのまま落ちてしまうわけにはいかないので全力で土槍を蹴りつけ、その反動を利用して体を回転させ足下から地面に落ち、僅かに地面を滑りながら足に力を込めて体を停止させる。
『……アスマ君!?』
飛び上がっていった直後に俺が落ちてきたものだから、クレアは驚きの表情と共に声を上げてこちらへ駆け寄ろうとしてくるが、それを手で制して俺は馬車へ視線を向ける。
盾に一撃を入れられた時は一瞬すぎてなにが起きたのか理解が追いつかなかったが、落下している最中に見えた馬車の内部に武器を振り切った姿勢で立っていたのは。
「うおおおぉぉぉっ!!」
「カイル! 俺だ! アスマだ!」
「っ?」
叫びながら剣を振り上げて落下してきたカイルへ向けて大声でそう呼び掛けると、カイルもようやくこちらの存在に気がついたようで、目を見開いて驚きをあらわにし、振りかぶった剣を振るうこともなくそのまま地面に落ちて俺の前までごろごろと転がってきた。
「うおっ、大丈夫か!?」
「……うん、大丈夫。でも、力抜けて立てない。起こして」