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討伐42

 ……いや、駄目だ駄目だ。取り乱すな、落ち着け。ここで俺まで冷静さを失ったらなにもかもが終わりだ。しっかりしろ!気を強く持て!

 奥歯が軋みをあげ、砕けそうになる程強く、強く噛み締める。

 そうして意識に負荷を掛けることで、揺らぎそうになる心を引き締めて僅かにでも思考を正常な方向へと持っていく。

 ある程度の思考力が戻ってきたところで、意識を戦闘状態のものへと切り替えるために目蓋を閉じて深い呼吸を数度繰り返す。

 そして、目を開いた時にはもうほとんど普段通りの自分を取り戻していた。

 ゲインさんに言われ、訓練の際には毎回行うようにしていたある種の自己暗示にも似たこの意識の切り替えは、このような場面でこそ最大の真価を発揮してくれる。

 だが、それでようやく冷静に物事を考えられるようになったというだけの話であり、事態が好転したわけではない。勘違いをするな。

 とりあえず、今はなにから優先的にこなしていかなければならないか、それを考えなければいけない。

 俺はいくつものことを並行してできるほど万能な人間じゃない。一つ一つ順番に課題を潰していくので精一杯だ。

 だから、まずはとにかく優先順位を決めるんだ。


 『アクティブスキル《思考加速》発動』


 この状況では一秒一秒の時間がなによりも重要視されるので、《思考加速》を使用して体感時間を引き延ばすことで考えるための時間を確保する。

 頭痛が酷くなる前に解除しなければならないのでそう長くは発動させていられないが、それでも数十秒の時間は稼げる。相手が次の魔術を行使してくるまでにどれだけの時間が掛かるのかは分からないが、その間に決断を下せ。

 まず一つ。カイルたちの安否が不明なことだが、そのことについてはもう考えるな。あいつらのことは初めからいないものだと思え。今は余計なことに思考を割いている余裕はない。だから、その思考は切り捨てろ……。

 次に、他の乗客や御者について。心配なことに変わりはないがこれも必要のないものだ。切り捨てる。

 次。次。次と順番に不必要なものを切り捨てていき、その次に考えなければいけないのは、腕の中で今も痙攣しているかのように震えているクレアのことだ。

 これについては切り捨てるという選択肢は初めからないが、今この状況の優先順位で言えば、クレアを介抱するのは二番目になる。

 ただそれは、クレアのことを二の次に考えた結果というわけではなく、敵の脅威に晒されているこの状態で意識をクレアにだけ集中するということはそのまま相手に対して無防備になるということであり、危険すぎるからだ。

 なので、この場においての優先順位で一番に当たるのは、敵の発見だ。

 発見し、容易に排除できそうなら即座に討伐に乗り出し、それが無理そうであれば一度この場から逃げ出すしかない。

 俺に考えられるクレアを生かすための方法としては、これがもっともよい手段であり、これ以上のものは思いつけないだろう。

 それに、徐々に頭痛も酷くなってきたので、《思考加速》はこの辺りで解除しておかなければならない。

 色々と間違っているのかもしれないし、俺の考えは最善とは程遠いのかもしれないけど、それでも俺は俺にできることをするだけだ。

 たぶん、後悔はすることになるだろう。それでも、ここで行動しなければ、それ以上に後悔することにかるのだけは分かる。

 だから、たとえそれが間違ったことなんだとしても、俺は自分の決めたことをやり抜いてみせる。

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