討伐39
「だからね、二体以上の敵を相手にする時は不用意に攻撃を受け止めようとはしないで、基本的には受け流す方がいいかな。相手が焦れて隙の大きな攻撃を見せるまでいなし続けて、そこで反撃を決めるか、狙えるのなら相手の攻撃を誘導して他の敵にぶつけたり、同士討ちを狙ってみるのもいいかもね」
「はー、なるほどな。その考えは思い浮かばなかった。確かにそれなら攻撃する手間を一つ省けるうえに相手の動揺を誘ったりもできるってわけだ。そう簡単にできるもんでもないだろうけど、それができるようになれば多対一の戦闘に追い込まれても戦えそうな気がするな」
「うん。かなり柔軟な対応力を求められるし、こればっかりは実戦で感覚を磨いていくしかないけど、この技術を身につけられれば盾使いとして言うことはないだろうね」
「だな。まぁ、俺は一通りの技術を身につけるところから始めないとならないから、その訓練をするにしてもまだまだ先の話だけど、うん、勉強にはなったよ。ありがとな」
オリオンに興味深い話を教えてもらった礼をして微笑み掛けると、オリオンもどういたしまして、という風に微笑みを返してくる。
そうして話に一区切りがついたところで、右隣で眠っているカイルに目を向けると、相変わらず俺の肩を枕にして寝息を立てていた。
──先程カイルが眠ってから一時間程が経過していた。その間にリリアも眠りにつき、馬車の中では特にすることもなく手持ち無沙汰になったので、左隣に座っているオリオンに盾の扱いについて話をしてもらっていた。
基本的な動作やその応用について、それから細かな技術についてのあれやこれやを身振り手振りを交えて語ってくれたので、その教えは分かりやすく非常に為になった。
人にものを教えられるということは、それだけその分野についての造詣が深いということであり、それを考えるとオリオンはゲインさんのように指導官向きなのかもしれない。ゲインさんと比べるのは間違っているかもしれないけど。
そして、俺たちが話をしている向かい側ではクレアとユーリがこちらと同じように顔を突き合わせて話をしていた。
こちらとは違い、向こうは魔力操作やその制御についての話をしているようで、どちらかと言えばユーリがクレアに念話や魔刃を発動させるために今までやってきた訓練法を教わっているようだった。
正直、俺からすればユーリもかなりの魔力操作技術を持っているように思えるんだが、そんなユーリからしてもクレアの技術は群を抜いているのか、ユーリが驚いた表情で「うそでしょー?」とか「そんなのできないよー」と言っているのが聞こえてきた。
まぁ、クレアのそれは何年もの時間を掛けてシャーロットから直接指導を受けたうえでお墨つきをもらっているものなので、普通はできるはずのないものなのだろう。
いや、むしろシャーロットですら「ここまで早く上達するなんて思ってなかったです」っていうぐらいだからそれ以上か。
もし自力でクレアと同等の魔力操作を身につけようとすればどれぐらいの時間が掛かるんだろう? ……考えたくもないな、それは。