討伐38
「ムテッポウ?っていうのがどういう意味かは知らないけど、カイルに近いっていうのはさすがに言いすぎだと私も思うわ。っていうか、私から言っておいてなんだけど、変わったって言っても良い意味でだからね。別に気にしないでいいから、変なこと言ってごめんなさい」
リリアが顔の前で左右に手を振った後、何故か謝罪をしてくるが、別段気に障ることを言われたわけでもないので「いや、気にしてないよ」とだけ言っておく。
そうしてそんなやり取りをしていると、不意に右肩に重みを感じたのでそちらに視線を向けてみれば、目を閉じたカイルが寝息を立ててこちらへとその身を預けてきていた。
「あ、カイル寝ちゃった?」
「みたいだな。まぁ、さっきから眠そうにしてたもんな」
でも、それも当然と言えば当然か。
昨日の夜に三交代で見張りをしていた時の最後がカイルとリリアだったから、この二人は日が昇る数時間も前から起きていたわけで、疲労も相まって限界がきてしまったというところだろう。
さっきまでは俺に対して少しよそよそしい態度を取っていたカイルだが、こうして俺の肩を枕にして眠っているところをみると俺のことを嫌ってはいないようで安心した。
「リリアも眠いなら寝ててもいいんだぞ? 夜明け前からカイルと一緒に起きてたからお前も結構眠気がきてるだろ」
「うーん、そうね。じゃあ私も少し眠らせてもらおうかしら。じゃあクレア、膝枕して~」
『……膝枕?……うん……私のでよかったら……どうぞ』
「やたっ!ありがと!」
猫なで声でクレアに膝枕を頼んだリリアは、クレアがそれを了承するとにっこりとした笑みを浮かべて上半身を預けるようにその膝へと倒れ込んだ。
「ふぃ~。あったかくて柔らかい。これならすぐに眠れそうだわ~」
『……ふふっ……ごゆっくり』
リリアがその心地よさにとろけて全身の力を抜くと、クレアはおどけるようにそう言って彼女の髪を撫で始めた。
……なんて羨ましい光景だろう。
まぁ、俺もクレアに膝枕をしてもらったことぐらいはあるが、羨ましいものは羨ましいから仕方ない。体温の高いクレアの膝枕は本当に気持ちいいからな。
正直に言うと今すぐにリリアと場所を入れ替わりたいが、せっかくクレアに仲のいい友達ができたんだから、ここは我を捨ててでも我慢するべきだろう。
っと、駄目だな。こんな風に羨んだ視線を向けていたらクレアに変な気を遣わせてしまうかもしれない。
ということで、そちらから無理やり視線を外して、とりあえず眠っているカイルにクッション代わりに使っていたマントを被せてやる。
「……んっ」
「おっと、悪い悪い。そのままだと冷えると思って上着を掛けただけだから、気にせず寝てていいからな」
「……んぅ。あんがと」
マントを被せる時に少しカイルの肩に手が触れて起こしてしまいそうになったが、静かな声でそう語り掛けると、カイルは礼を言って再び寝息を立て始めた。