討伐37
「けど、アスマ君も変わったわよね」
「だよなー。最初は俺たちよりも弱かったのに、いつの間にかあんなことになっててさ」
愚痴るようにそう言うカイルだが、俺のスキルにも色々制限があるから瞬間的な戦闘力では確かにそれなりの強さはあるかもしれないけど、長期戦になればなるほどスキルの反作用によって肉体的な負荷が大きくなってくるから、そう考えるとレベルによって基礎能力が恒常的に強くなるカイルたちの方が俺としては分かりやすくて羨ましい。
こういうのを無い物ねだりというんだろう。どちらにも長所はあるんだが、自分に無いものを持っている相手のそういう部分に対して自分にもあればと思ってしまう。
それを羨んだところで手に入るものでもないけど、こればっかりはな。人ならば大抵誰もが持っている当たり前の感情だから仕方ない。
まぁ、だからこそ試行錯誤して新しいなにかを身につけて短所を克服しようとするわけだけどな。
「そこに関してもかなり驚いてるけど、私が言ってるのは性格の方なんだけど」
「あー、それは僕も思ってた。なんていうか、雰囲気が落ち着いたっていうか、前はもう少し軽いというか……カイルに近い性格だったような」
「……いや、それは言いすぎだろ。俺そこまで無鉄砲な性格ではなかったはずだぞ? まぁ、自分でも性格が変わったとは思うけど」
変わった、というよりは変わらないといけない状況に追い込まれたからなんだけどな。
こっちにきたばっかりの頃は最低限魔物と戦える力を手に入れたら、手っ取り早く金を手に入れるために冒険者になって、金を貯めてミリオに借りてたものを返したら適当に旅でもしようかな、とかそんな軽い気持ちを持って浮かれていたところがあったのは否定しない。
でも、そもそも冒険者になるだけでも色々と乗り越えないといけない壁があったり、街の外には想像を遥かに超える強さを持った魔物なんかがいて、このままじゃ俺みたいなちっぽけな存在はすぐに殺されてしまうだろうと思ったから、根本的なところから考え方を改め直して今の俺になったようなところはある。
それと、もう一つ。むしろこれが一番大きな変化を俺に与えたのかもしれないが、やっぱり守りたいものができたから、だろうな。
実際、クレアの存在が俺に与えた影響は計り知れない。ここまで強くなれたのもクレアがいたからこそだ。
まぁ、それでもミリオの目的を手伝うたまにはまだまだ全然足りてないんだけど。
それでも一歩一歩着実に前には進めているはずだ。
だから、これからも立ち止まらずに進み続けよう。強くなるのに必要なものを手に入れるために。