討伐35
訓練の内容については、事前にオリオンに頼んでいた盾の扱いにかんしてのものだ。
まだ返事をもらっていなかったのだが、先程その話を持ち掛けると「暇だからいいよ」との言葉をもらえたので、カイルには攻撃役に回ってもらい、オリオンに見本を見せてもらいながらカイルの剣を受け止める練習をさせてもらった。
訓練を始めた当初は、不満そうな表情で「なんで俺が兄ちゃんを強くする手伝いをしなくちゃなんないんだよ」と言っていたのだが、盾の扱い方を知っていれば守りを固めてる相手と戦うことになった時に相手の動きを予測しやすくなるからお前にとっても無駄にはならないだろ? と言うと、「それもそうか」とすぐに納得して、そこからはカイルもやる気をみなぎらせて訓練に打ち込んでいた。
ただ、やっぱり《限定解除》を使用した俺の本気を見せた時から、カイルは今までよりも対抗心を燃やしているように感じられて、その真剣な目が少し怖い。
目標としている地点がどの程度のものなのかを見て感じてもらおうと思って「しっかり見ててくれ」と言ったのだが、もしかしたら失敗だったかもしれない。
正直、《限定解除》を使用したことで《思考加速》や《死気招来》をリスクなしで発動できるようになることは、俺の想像以上に強力なものであったようで、ワイルドボアのリーダーも、その周囲にいた仲間も想定していたよりも遥かに容易に倒すことができ、まるで相手にならなかった。
図に乗っていると思われるかもしれないが、事実として苦戦を強いられることもなく完全な勝利を収めたのだから、自己評価で多少低く見積もったとしても、あの状態の俺なら低位の魔物なら数がどれだけいようが負けることはないだろうと言える。
イメージトレーニングのうえでは格上であるブラッドウルフにすら届く力を発揮できているんじゃないかとは思っていたが、どうやらそれは勘違いではなかったようだ。それでも上位種を複数体相手にしたなら普通に負けるとは思うけど。
でも、あれを見たせいでカイルがこうして自分との差を埋めるために焦って強くなろうとするような事態を招いてしまったのはやっぱり失敗だったと言わざるを得ない。
俺としてはカイルにはじっくりと技術を磨きながらレベルを上げて自力をつけることで俺を軽く凌駕して、その更に先に行ってくれたら嬉しいんだけどな。
まぁでも、リリアやオリオンにユーリがいるから変に暴走するような事態に陥ることはないだろうというところは安心できるところだ。
今は俺がなにを言ったところでそれを治めることもできないだろうし、無責任だけどそこは他の子たちに任せるとしよう。