討伐30
「さてと。それじゃあ、待ちきれなくなったカイルが勝手に突っ込む前にやるとするか」
『うん。やろう』
独り言のような俺の言葉にそう答えたクレアに一つ頷きを返し、体をほぐすように伸びをして深く呼吸を繰り返すことで意識を切り替えて集中力を高めていく。
視線の先にいるワイルドボアは全部で十体程で、リーダーらしい個体がいるのはその中心。
リーダー以外の個体は後で対応するとして、どのように接近し、どのように仕留めるのかを頭の中で想像する。
……よし、まとまった。
なら、後はこれを実行に移すだけだが、その前に一つ全員に話しておかないといけないことがある。これを聞いておいてもらわないと、そうなった時に混乱させるかもしれないからな。
『あー、ちょっといいか。今から全力で戦うからその前に皆に言っておくことがあるんだけど、俺はその全力を使った後少しの間力が使えなくなる。だから、戦闘が終わる前にそうなった場合、悪いけど後ろに下がるかもしれないからよろしくな』
これから俺は《限定解除》を使う。
《限定解除》は俺の切り札であり無理を押し通すための力だが、その反動で効果が切れた後一時間程はスキルが一切使用できない状態になってしまう。
それはいつも俺を痛みから守ってくれる《限界突破》や《赤殼》、そして、絶望的な戦力差さえをも引っくり返すことのできる《起死回生》も例外じゃない。
それを封じられたうえで無謀な戦いに身を投じれば、ただの足手まといになってしまうことは分かっている。だからこそ、そうなった場合俺は後衛へと回らせてもらうということを先に伝えておく。
『それって、ここにくる途中に言ってた切り札ってやつ?』
『あぁ、それだ。使う必要がないなら温存しておくつもりだったけど、この場面なら使うべきだと判断した。だから、迷惑を掛けることになるかもしれないけど、それでもリーダーだけは絶対に倒してみせるから、力が切れた後のことは皆に任せるな』
勝手なことを言っているのは百も承知だが、それが俺という臆病な人間やり方であり、自分なりの全力の尽くし方。自分の中のルールに従い、導き出した答えがこれだ。
許される限りで自分にできることは精一杯にやるつもりではあるが、この考え方が気に入らないという者もいるだろう。
だが、間違っても俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。そのために自分とクレアの命を第一に考えて出した結論がこれだ。
ふざけていると言われようが、舐めていると言われようが、そんなのは知ったことじゃない。俺は俺の大事なもののためにしか命を投げ出すつもりはないし、関係のないものを守るために危険を冒すつもりもない。
だから、なんと言われようが俺はこの考えを変えるつもりも言葉を撤回するつもりもない。
たとえその結果に、誰かが自分の下を離れていくのだとしても。