討伐29
「昼間も思ったんだけど、アスマ君、よくそんな格好つけた台詞言えるわね。言ってて恥ずかしくない?」
「茶化すなよ。言ってることは分かるけど」
「え? ああ、ごめん言い方が悪かったわね。茶化す気とかは全然なくて、ただ、そういうの言葉にできるのってすごいなーって思っただけだから」
「そうか? いやでも、ちゃんと言葉にしないと伝わらないことってあるだろ?」
以心伝心の間柄ってものには憧れるけど、あれはそれこそ長い期間四六時中一緒に生活してるぐらいの者同士じゃないと辿り着けない領域だろうから、そんなにお手軽なものじゃないはずだ。
なら、こっちが思ってること、決意したことは言葉にして伝えた方がいいに決まってるだろう。
「……そうだね。うん。その通りだと思うよ」
俺の言ったことになにか思うところがあったのか、どこか神妙な声でリリアはそう言って、でも、直後にその思考を振り払うように頭を振って自身の頬を両手で叩くと、気持ちを切り替えたのかその表情はいつも通りのものだった。
よくは分からないけど、まぁリリアも年頃の女の子なんだし悩みの一つや二つはあるよな。ここはそっとしておくことにしよう。
そうして、リリアから視線を外してカイルたちの方へと向き直ると、ちょうど二人が行動を開始しようとしているところだった。
「そんじゃ、俺たちは先に行くからな」
「飛び出す時の合図よろしくねー」
そう言って、カイルとユーリは左右に別れて木や茂みを遮蔽物にしてその身を隠しながらワイルドボアに感知されないように大回りでその真横に位置づくように移動を開始した。
そして、音を立てないよう慎重に行動した二人はなんとか相手に気づかれることなくその場に辿り着いたようで、思念を飛ばしてこちらにそれを報せてきた。
『で、こっからどうすればいいんだ?』
『じゃあ、今から魔物のいる場所の上に光魔術の《フラッシュ》を撃ち込むから、絶対に上に目を向けないようにして。それで二人は《フラッシュ》が発動したらそこから飛び出してそこにいる魔物のリーダーに斬り掛かって』
『なんだよ、俺たちで倒しちゃってもいいのか? 兄ちゃんが止めを刺って話じゃなかったか?』
『うん。でも、別に倒せるのなら二人で倒してくれてもいいよ。できるなら、だけど』
『へっ、上等だ』
それを聞いたカイルは、顔が見えなくてもにやついているのが分かるほどの声でそう答え、今すぐにでも飛び出そうとしているのが目に浮かぶようだった。