討伐27
「ん、ちょっと待った」
それから歩き続けて一時間ほどの時間が経った頃。視界の先にようやくワイルドボアの姿を発見することができたので、戦闘準備を整えるために一度後ろの仲間たちに掌を向け静止の声を掛ける。
「いた。しかも、一体他のワイルドボアよりも一回り近く大きい個体がいる。たぶん、あれがこの群れのリーダーだろうな」
木の陰に身を隠すようにしながらそちらを覗き見て、その特徴を観察してみると体が大きい他、体中にいくつもの傷を持ち、他の個体より牙も太く鋭い。
その姿は一目見ただけでも様々な戦いを経験してきたのだということが分かるほどで、相応の迫力を有しているように思う。
「へぇ。じゃあ、あれがギルマスの言ってた古い個体とかってやつ?」
「うーん。いや、それはどうかな。戦闘経験はかなりありそうには見えるけど、古いっていうほどくたびれてる感じはしないんだよな。なんとなくだけど」
まぁ、魔物って成長はしても老化はしないような印象があるからもしかしたらあれがそうだという可能性は捨てきれない。
元より手を抜くつもりなんてないが、その可能性がある以上は厄介な手を打たれる前に速攻で決めにいくべきだろう。
「ただ、違うとも言い切れない以上はそれを前提として動いた方がいいだろうな。ってことで、どうやって攻める?」
意見をもらうためにクレアの方へと振り向くと、すでにどうするのが一番いいのかを考えていたのか、口元に手を当てて虚空を見詰めていた。
そして、納得のいく策を思いついたのかクレアは一度頷き、こちらに視線を合わせてきた。
『……えっと……アスマ君《思念会話》を皆に繋いでもらってもいい?』
「ん? あぁ、了解」
全員の存在を意識して《思念会話》を発動させ、その間に相互に思念を伝達するための経路を形成する。
『繋いだぞ』
『うん、ありがとう。それじゃあ、まずなんだけど、カイル君とユーリちゃんはあっちに気づかれないようにここから左右に別れて相手の側面に付くように移動して待機しておいて』
「気づかれないようにって、なかなか難しいこと言ってくんな。まぁ、できるけどな」
「りょーかい。なら念のためにもう一回《消臭》掛けておくー?」
『うん、お願い』
「はいはーい」と言ってユーリは魔力を高めると、自分とカイルに《消臭》という補助魔術を行使して、その身から臭いを消し去った。
その魔術についてはさっき初めて存在を知ったんだが、どんな臭いだろうがほぼ完全に消し去ることのできる魔術らしい。
先程、仮眠を取る前に血と汗の臭いが嫌だと言ったユーリが俺たちとその装備にまとめてその魔術を行使したことで判明し、そういう魔術があるんだということを教えてもらった。
今まで直接戦闘に関係のない魔術については覚えようともしてこなかったが、この魔術はかなり有用なので、こういった魔術があるのならそちらにも目を向けた方がいいということを痛感させられた。
正直、この《消臭》は日常的にも色々な場面で使えるだろうし、帰ったらユーリかシャーロット先生に教えてもらおう。