討伐22
それに倣うように、俺も穴を飛び越えてきた個体に狙いを定めると即座に肉薄し、打ち据えるように振るった槍で足を払いその巨体を転ばせ、倒れた魔物の足を槍で貫くと次の個体の処理に移る。
凪ぎ払っては突き、横を通り過ぎていった個体には背後からナイフを投擲することで転ばせ、そう簡単には後ろには到達させない。
その転ばせた個体にはクレアが止めを刺し、クレアの後ろにはいざという時のためにオリオンが控えているので余計な心配はせず、次の標的へ狙いを定めるとその対処に向かった。
そうして、行動不能にさせた個体の数が六体に達し、それ以上の増援がなくなった時、後ろからやってきたリリアが穴の中へ液体のようなものを振り撒くと、そちらへ掌を向けた。
「さぁ、燃え尽きなさい。《ファイアボール》!」
リリアが掌に生み出したのは火の基本魔術である《ファイアボール》だ。
その大きさは掌に収まりきらないほどに大きく、あまりの熱量にその周囲が揺らめいてみえる。
打ち出したその火球は一番近くにいた個体に衝突すると小爆発を起こして一気に燃焼し、その身を焼き焦がしていく。
更に被害はそれだけに止まらず、その火は周囲へと伝播して穴の中でもがいていたワイルドボアを容赦なく燃え上がらせてしまう。
だが、《ファイアボール》という魔術には本来これほどの燃焼力はないはずだ。
恐らくは術を放つ直前に撒いていたあの液体がその原因を作っているのだろうが、あれは油か?
「……あー、つっかれたー」
魔力が不足しているところで更に魔力を消費したことで、リリアは先程よりも一層ぐったりとしていた。
周囲を見回してあらかたの片がついていることを確認すると、リリアの下へと歩み寄っていく。
「よ、お疲れさん。大丈夫か?」
「……え? あー、アスマ君か。うん、大丈夫よこれぐらい。慣れてるし」
「いや、魔力の枯渇に慣れてるってなんかすごいな」
普通はそんな限界まで魔力を消費することなんてないと思うんだけど。
いや、魔術師にとってはそれが普通なのか?
「まぁ、大丈夫ならいいんだけど。それよりさっきの《ファイアボール》すごい火力だったけど、あれどうやったんだ?」
目の前ですでに下火になってしまっているそれを見ながらリリアに質問すると、リリアも気だるげに視線をそちらに向ける。
「あぁ、それ? 魔術を放つ前に油を掛けてやっただけよ。まぁ、油っていってもただの油じゃなくて燃焼力の高い油と粘着性の高い油を混ぜた特別製のやつだけど」
「あー、その油を使うことで魔術の威力を高めたってことか」
「そ。まぁ、こんな風に身動きが取れなくなってる相手にしか使えない手だけど、魔術一回でこれだけのことができるようになるんだからお得でしょ?」
「あぁ、それは間違いないな」
魔術だけで同じことをしようとすれば、もっと大規模な魔術を使うか、魔術を複数回使用しなければならないところを道具の力で補うというやり方はかなり有用な手だろう。
なんだったら威力では魔術に劣るだろうが、安全に火をつける手段さえ確保できれば魔術を使わなくても同じようなことはできるだろうし、覚えておこう。