討伐21
リリアといい、ユーリといい、身近にこれほど優れた人材がいると嫌でも自分の半端さが浮かび上がってくる。
別に俺は魔術師というわけじゃないからその部分で劣っていたとしても気にするほどのことはないとは思うんだが、俺の場合戦士として見ても然程優秀ではないので微妙に劣等感が刺激されてしまう。……まぁ、今気にするようなことではないので考えないようにはするが。
「……あーいや、すごいなって思っただけだよ。悪いな変な反応して」
「んー? そっかー」
そうは言いつつも、ユーリは俺の反応が気になったのか少しの間こちらに視線を向けていたが、それ以上の詮索をするようなことはなかった。
と、そうしてこちらの準備が完了していくらかの時間がすぎた時、不意に森の奥から力強い獣の咆哮が響き渡ってきた。
一つの個体が上げたそれが呼び水となり、一つ、また一つと咆哮を上げるものが出始め、いつしかそれは混ざり合い一体の巨大な獣が上げた咆哮のようになり、肌で振動を感じられるほどに大きなものになっていた。
そして、それが止むか否かというタイミングで、大量のワイルドボアが木々の向こう側から姿を現し猛烈な勢いでこちらへ駆け出してくる。
その光景はさながら獣の洪水だ。
自分の背丈ほどもある大きさの目を血走らせた獣が一斉にこちらへ押し寄せてくる様は恐怖そのものでしかない。
だが、俺たちは誰一人としてその場から動き出そうとはせずに、それを静観している。
端から見れば俺たちは危機感の足りていない間抜けな者に見えるのかもしれない。だが、今この場においてはこれでいい。これがいいんだ。
獣の群れがこちらに迫る。互いの距離は瞬く間に詰まり、そして群れがその場に並べられていた死体の脇を通り過ぎ、次の一歩を踏み出した瞬間、その足が地面を踏み締めることはなく、まるでその地面が幻影であったかのようにあっさりと踏み抜き、その勢いのまま壁面へと盛大に鼻頭を打ちつけ、先頭を走っていた数体の獣が地の底へと消えていった。
「──いくぞっ!!」
それを目にした瞬間、待ちに待っていたカイルが雄叫びと共に駆け出し、それに追従するように俺とユーリも飛び出した。
目の前では続々と穴へと落ちていく魔物の姿があったが、後列にいた個体はそれを目にしていたからか穴の縁で跳躍することでそれを飛び越してこちらへと到達してきた。
だが、数歩の距離を進んだところでその場に辿り着いたカイルの手により、すれ違い様に前足を斬り飛ばされて転倒する。