討伐20
「ちょっと気張りすぎよ、クレア。ほら、もっと肩の力抜きなさいって。私が言うのもなんだけど、そんなんじゃ最後まで持たないわよ」
『……あは……うん……そうだね……ありがとうリリアちゃん』
「いいわよ別に。でも、あれよ。クレアは今指揮役なんだからもうちょっと周りに頼ってもいいのよ。なんなら戦闘は全部アスマ君に丸投げすれば?」
「いや、それはさすがに無理があるからな。一体俺をなんだと思ってんだよ」
いやまぁ、後先を考えずに《限定解除》を発動させればできないこともないかもしれないけど、あれは最終手段だからそうおいそれと使えるものではない。いつ新手の魔物と遭遇してもおかしくないこの状況で使うのは危険すぎる。効果が終了した瞬間に俺が一気にお荷物になるだろうしな。
「分かってるわよ。要はそれぐらいの気持ちでいればいいってことを言いたいのよ、私は。一人でやれることには限度があるんだから、なんでも抱え込んでたらそのうち倒れちゃうわよ」
『……うん……気をつけるね……でも……まだ大丈夫だから』
「そ、なら私から言うことはもうないわ」
リリアも俺と同じようにクレアが負担を感じていないかを心配してくれていたのだろう、少しそっけないような態度でそう言いつつも、その言葉の端々からクレアを気遣う気持ちが感じられた。
「ってことでユーリ、そろそろ準備は済んでる?」
と、リリアがユーリへと視線を移して彼女にそう問い掛ければ、その準備とやらが完了していたのかユーリは頷いてみせ、俺たちのほうへと両の掌を向けきた。
「《フィジカルブースト》、《フィジカルプロテクション》」
ユーリがその言葉を口にした瞬間、俺たち全員の体に魔力光が注ぎ込まれ肉体が強化される。
その二つの魔術は俺も扱うことができる初歩的な補助系魔術なのだが、今の一瞬で二つの驚きが俺を襲った。
「……は? 今なにやった?」
「えー? なにって、補助魔術?」
「じゃなくて、今二つの魔術を同時に発動させなかったか? しかも、一気に全員に」
「やったよー。それがどうかしたのー?」
……どうかしたもなにも、それがどれだけ難しいことなのかこいつは分かってるのか?
魔術を一つ発動させるだけでも、魔力の収束、対象の存在を感知してからの精密な魔力操作が必要になってくる。
それを同時にこなすだけでなく、全員に掛けるとなるとその複雑さはとてつもなく高度なものになるだろう。実際、俺は同時に二つの魔術を扱うなんてことはできないし、一つだけでも結構な集中力を要求される。
なのにあいつはそれを当たり前のようにこなしておいて、それがどうしたとか、あり得ないだろ。差がありすぎて参考にすらならない。