討伐19
その後、少しの間森の奥からこちらを窺い続けていた魔物らしき気配は一度霞のように消え去ったのだが、しばらくの時間を置いて、それは明確な圧力を伴い再度その場に舞い戻ってきた。
「……なぁ、これちょっと多くね?」
「あぁ、思ってた以上に多いな」
カイルの呟くような声にそう答えながらも、目の前の暗闇からこちらを覗いている爛々と光る一対の瞳の数をざっと調べてみれば、少なくともその場には二十を超える個体が潜んでいることが見て取れた。
「なぁクレア。この数全部落とし穴に収まるか?」
『……全部は無理かも……たぶん……半分ともう少しぐらいで限界だと思う』
「そっか。なら一人、というか一組当たり四体ぐらい倒したうえで落ちたやつが穴から這い上がってくるまでに始末しなくちゃならないってことか。なかなか厳しそうだな」
後ろに逃がしてしまえば民家に被害が出てしまう可能性がある以上はこの場で食い止めなきゃいけないわけだが、一斉に襲い掛かってくるであろうそれだけの数の魔物を抑え込むのは容易なことではないだろう。
『……そうだね……優先しなくちゃいけないのは村の人たちの安全だから……止めを刺すことよりもとにかく足を使えないようにしないと』
「じゃー、私たちはさっきみたいにあいつらの足を斬って走り回れないようにすればいいのー?」
『……うん……アスマ君……カイル君……ユーリちゃんはそれでお願い……オリオン君は少し後ろで抜けていっちゃった魔物の足止めをお願い……止めは私が刺すから』
一見それはまどろっこしいように思える作戦ではあるが、なるべく被害を出さずにこの状況を乗り越えようとするのならこれが最善だろう。
クレアの言葉に全員が頷いて返し、それぞれが自分の武器へと手を掛けてその時を待つ。
「それで、私はどうすればいいの?」
と、その時後ろで休んでいたはずのリリアがこちらに歩み寄ってくると、そんなことを言い出した。
『……えっと……リリアちゃんは……疲れてるだろうから休んでくれててもいいよ?』
「この状況でそんなわけにもいかないでしょ。明らかに手が足りてないじゃない。足を引っ張りそうになったら自分で下がるから私は平気よ。ほら、なんでも言いつけなさいな」
気だるげではあるもののその瞳にはしっかりとした力強さがあり、任せても大丈夫そうだと判断したのかクレアは一つ頷いてみせる。
『……じゃあ……リリアちゃんは穴に落ちた魔物をできる範囲でいいから倒して……方法はなんでもいいから』
「ん、了解。任せなさい」
そう言ってリリアはクレアの頭に手を伸ばすと、優しげに二度叩いてみせた。