討伐14
今までに身につけてきた戦闘技術のことを振り返り、その取得過程でこなしてきた訓練の数々を思い出して少し気が遠くなるが頭を振ることでその記憶を払い去り、そろそろ本題に入らせてもらうことにする。
「ところでオリオン君。ちょっと相談があるんだけど、いい?」
「僕に? いいけど、難しいことは聞かれても分からないよ?」
「いや、大丈夫。さっきまでの話でこの相談にはオリオンが適任だってことは確認済みだから」
「どういう意味? 話が見えないんだけど」
「うん、あんまり回りくどい言い方をしても面倒だと思うから率直に言うけど、俺に盾の使い方を教えてくれないか?」
真っ直ぐにオリオンの目を見てそう言うと、オリオンは首を傾げて妙なものを見るような目でこちらに視線を向けてくる。
「え、なんで?」
「なんでって、もっと盾をちゃんと使えるようになりたいからだけど……あー、嫌か?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、それって僕に頼まなくてもいいんじゃないかなと思って」
「や、俺の知り合いでオリオンの他に盾を使ってるやつっていないんだよな。基礎的なことはゲインさんから教えてもらったんだけど、あの人は別に盾使いじゃないから教えてもらえることにも限度があるしさ」
実際、基礎を教わったあとはひたすら攻撃を防いだり、流したりと、戦闘形式で盾を扱う感覚を叩き込まれただけだしな。
「じゃなくて、ゲインさんにその相手を紹介してもらったりとかはできるんじゃないかなって」
「……いや、それは最後の手段だから。というか、それについては実は考えないようにしてたんだよな」
「え? どうして?」
どうして、か。できれば言いたくはないんだけど、俺が頼みごとをしている立場なんだから聞かれたことには答えないといけないよな。
「……そうだな。前に訓練所で一緒に稽古受けてた時があっただろ? 覚えてるか?」
「うん、僕たちが初めて会った場所だよね。覚えてるよ」
「そう、お前たちが居た時はさ、本当によかったんだよ。あの頃はあれでもきついと思ってたけど、お前たちがあそこからいなくなってからはさ、本当に地獄だったよ。毎日限界まで肉体を追い込んでの体術訓練がさ、本当につらかったよ。半分は自分から頼んだようなものだから逃げ出すわけにもいかないし、強くなるために必死で体を鍛え続けてたけど、正直あの時のことはもうあまり思い出したくもないんだ」
今でも、ゲインさんと二人だけで会った時には体が震えるぐらいにはトラウマが残っているからな。他に人が居れば大丈夫なんだけど……。
「まぁ、なんていうかさ。あの人の紹介で来た人に何かを教わる場合、あの時と同じ目に遭う可能性がかなり高いわけで、それはもう、さすがに勘弁してほしいんだ」
次に同じような目に遭ったら、本気で心がやられてしまう自信はある。
「だから、暇な時だけとかでもいいからさ。一応考えておいてくれよ」
「……あ、うん。分かったよ」
オリオンは気の毒そうな表情でこちらを見ているが、少しでも同情する気持ちがあるのなら是非とも俺に技術を提供してほしい。
あの人の地獄の訓練から逃れるためなら、俺はプライドすらも全部投げ捨てる覚悟はあるからな。