討伐10
「おっしゃあ!大っ勝利だぜ!」
オリオンたちから視線を外して、声のした方を見ると破顔したカイルがこちらにピースサインを出していたので、こちらも笑顔で親指を立てて返すと剣を納めてこちらに走り寄ってきた。
「なぁなぁ兄ちゃん、今の見てた!」
「おぉ、見てた見てた。すごかったなさっきの」
「へへっ、だろ!俺もあれからすっげぇ強くなったんだぜ。まぁまだ兄ちゃんには敵わないけどさ、いつか俺が今よりももっと強くなって兄ちゃんに追いつけたらさ、また前みたいに俺と戦ってくれる?」
カイルにしては珍しく控えめなお願いに少し疑問を覚えつつも、それぐらいなら全然構わないので頷いて答える。
「あぁ、別にいいぞ。というか、いつかじゃなくてもこの任務が終わってからとかでも全然いいけどな。お前と戦うのは俺にとってもいい訓練になるし」
そう言って肯定的な返事をしたのだが、カイルは難しい顔をして左右に首を振った。
「……いや、それじゃ駄目だ。今やっても勝てないってのは今日一日で分かっちゃったから」
「え? あー、いや、まぁ、確かに今やったら俺が勝つ可能性の方が高いだろうけど、負けてもそれはそれで勉強にはなるし別に勝敗なんてどっちでもいいだろ?」
なにかを賭けているわけでもなし、模擬戦は勝ち負けうんぬんよりも互いに自分の戦闘技術を試しながら今の自分がどれだけの力を持っていてどのように戦ったらより相手に効果的なのかを試すためのものだし。
「どっちでもよくない。少なくとも、俺は兄ちゃんだけには負けたくない」
「えぇ……。なんで?」
「だって、最初の頃は俺の方が強かったのに、いつの間にか兄ちゃんの方が強くなってさ、だから俺も頑張って強くなって追い抜いてやろうと思ってたらそれよりもずっと強くなっててさ、なんか悔しいじゃんそれって。置いてきぼりにされるのって、すっげぇ悔しいじゃん!」
カイルは拳を握り締めて俯きながらそう言うと、勢いよく顔を上げてこちらに指を突きつけてきた。
「だから、追いつけたら!追いつけたら勝負してよ!次にやる時は絶対に負けないように俺ももっと信じられないぐらいに強くなってるからさ。だからさ、その時は全力で真剣にやってよ。お願い!」
そう言って、カイルは顔の前で両手を合わせて上目遣いにこちらを窺っている。
なんでそんなに俺に勝つことにそんなこだわるんだろ? 確かにずっと勝ててた相手に勝てなくなったら悔しいっていうのは分かるけど、俺よりも強い相手なんてあの街だけでも山ほど居るだろうに。
……なんだろう。劣等感でも覚えてるのかな? そんなの覚えなくてもカイルならすぐに俺よりも強くなれるだろうからそんな必要ないのに。
でも、それでこいつの気が済むのなら、まぁいいか。
「……分かった。じゃあお前が追いついてきたら真剣に勝負するよ。全力でな」
「うんっ!」
いい笑顔で元気よく返事をするカイルに苦笑いを返して、そこで一つそれとは別の勝負をしていたことを思い出す。
「あ、そういえばどっちが先に中級に上がれるかっていう勝負してたけど、あれはまた別なのか?」
「うん、別」
「あー、そうか」
それこそ本当にどっちでもいいんだけど。まぁ、一応覚えておこう。いつかくるだろうその勝負のことを。