討伐6
『うっし、そんじゃ役割も決まったことだし早速いくか!』
歯を剥き出しにして強い笑みを浮かべたカイルが、愛用の長剣を構え張り切って前に出ようとしたのでその動きを手で制する。
『待て待て、さっきの話聞いてたか? 俺が最初に出るんだから勝手に前に出ようとするなって』
『え? あー、悪い悪い。そうだった』
『……えぇ。お前、大丈夫か?』
緊張している、というわけではなさそうだけど、さっき聞いたばっかりの作戦をいきなり忘れてる感じなんだけど。
『はぁ、本当あんたってやつは……。ごめんねアスマ君。こいつってば一度その気になったら、全っ然人の話聞かないから。毎回こうなんだから』
『ん? いや、ちゃんと聞いてたぞ?』
『はいはい。話を聞いてたとしてもちゃんとその通りに動かないのなら聞いてたうちに入らないって言ってんのよ私は』
『うっ。いやー、ははは……悪い』
どうやらこういうことはよくあるようで、疲れたような表情を浮かべたリリアが少し怒り気味にカイルへ指摘すると、カイルも毎度そう言われていてその自覚があるのか素直に謝罪している。
『別にいいわよ、さすがにもう慣れたし』
『ははっ、そうだね。カイルが勢いだけで敵に突っ込んでいくことなんてよくあることだしね』
『だねー。それでもなんだかんだ上手くやるところだけはすごいと思うけどねー。すっごい疲れるけど』
それでもこれまでの実績から信用は築けているからか、皆の言葉からは呆れるような感じはあっても嫌なような感じは一切ない。
どころか、軽口を言い合うことで先程よりもいい具合に緊張感がほぐれているような気までする。
……こういうのが天性のものっていうやつなんだろうな。大抵のことはなんでも上手くやれて、少し無茶なことをしてもその行動が周囲の人間にいい意味で影響を与えられる。羨ましい限りだ。
『あ、アスマ君』
『ん? どうした、クレア』
『あのね、少しの間アスマ君の剣を借りてもいい?』
『え? あぁ、別にいいけど。どうするんだ?』
鞘ごと外すのは少し面倒なので抜き身のそれをクレアへ渡すと、クレアは刀身を眺めて納得するように一度頷いた。
『えっと、私の剣はあの魔物を相手にするには少し短いから、それで少し使わせてもらいたいんだけど』
『あー、なるほど。確かにあの巨体に短剣じゃ体の中心まで刃が届かないかもしれないか。ん、分かった。そういうことなら好きに使ってくれ』
『うん。ありがとう、アスマ君』