討伐3
そうして先程まで居た場所の近くまでやってきたところで、行く先から木葉が擦れる音と獣の鳴き声のようなものが聞こえたので、まさかと思い家の陰から僅かに顔を覗かせてそちらを見てみると、そこには今まさに想像していた通りの光景が広がっていた。
ワイルドボアが四体。
視線の先にはそれだけの数の魔物が仲間の死体を前にして佇んでいた。
その場に四体もの大きな魔物がいると視覚的に圧倒されそうになってしまうが、見つかってしまうと面倒なことになりそうなので即座に首を引っ込める。
一人で相手をするには数が多すぎるな。まぁ、ただ勝つだけならどうにでもなりそうではあるが、できるだけ周囲への被害を抑えながらとなるとなかなかに難しいものがある。
それでも、皆でやるならば被害なく対処できるだろうし、今のところは魔物側にも動く気配はないからここはおとなしく応援がくるのを待つことにしよう。
そう決めて、壁に背を預け音を頼りに向こうの動きを探っていると、不意に妙な音が聞こえてきたので一層耳を澄ませてその動向を窺う。
それは、湿り気を帯びた一定間隔で繰り返される音だ。それが四つ重なって重厚感のある音になっているのだが、結局のところなんの音かは分からない。
なんとなく日常的に聞いている音のような気がしないでもないが、すぐには思い当たらず頭を捻ってみても納得のいく答えは浮かび上がってこない。
なので、少し軽率かもしれないとは思いつつも、再度家の陰から顔を覗かせて何をやっているのかを確かめることにしてみた。
「……っ!?」
だがそれを目にした瞬間、その光景があまりにも予想外のものだったので絶句してしまう。
家屋の向こうから聞こえていたあの音は、血の滴る肉を咀嚼していた音──四体のワイルドボアが死んだワイルドボアの肉を貪り食らっている音だった。
うわぁ、という思いと共に昨日のグランツさんの話と資料に記載していた内容を思い出す。
繁殖後のワイルドボアは食欲が旺盛で、そのために数が多くなりすぎると群れを二分させて食料を調達する場所を変えるんだと。
……食欲が旺盛だとは知ってたけど、まさか共食いまでするとは完全に予想外だ。
まぁ、普段俺たちも動物の肉なんかを食べたりしてるからあまりどうこう言ったりはできないんだけど、調理もしていないどころか姿がそのままの仲間の死体を大きく開いた口でかぶりついているその姿はさすがにグロテスクすぎて胃の辺りが少し気持ち悪くなってきた。
『……何見てるの?』
「っ!?」
意識をそちらに向けていたこともあり、背後から急に話し掛けられたことに激しく動揺して声を上げそうになってしまったが、寸前でそれを堪えて後ろに振り返るとクレアを先頭にカイルたちがそれぞれに武器を手にしてそこへ立っていた。