討伐
「……いた」
再度《感覚強化》を発動させることで暗闇を見通せるように視覚を強化すると、畑の作物を牙で掘り起こして食い散らかしている個体と、臭いでも嗅ぐように鼻を小刻みに動かし辺りを徘徊している個体、計二体のワイルドボアの姿を発見することができた。
そしてそのうちの一体、しきりに鼻を動かしている個体がこちらに向かってきているようだった。
おそらくだが、先程倒した個体から流れ出た血の臭いを嗅ぎ取ったんじゃないかと思っている。
オークもそうだったが、その身に動物的特徴を持つ魔物はその特徴に応じて、感覚も動物のそれに近いものがあるような気がしている。
なので、これ以上近づけば俺の存在があいつに知覚されてしまうだろう。
まぁ、居場所がばれたところでいくらでも対処のしようはあるのだが、あいつが暴れまわることで家屋に被害が及び、更に住人にまでそれが及ばないとも知れないので、できるだけ穏便に事を済ませるために俺は槍を手に取り投擲の構えを入る。
腰を落とし、体のバランスを取るように片手を前に突き出して、肩口で大きく引き絞った槍を全力で放つ。
『アクティブスキル《力の収束》発動』
全身の力を余すことなく乗せたその一投は、風切り音と共に一切ブレることもなく高速で飛翔し、ワイルドボアの頭部を貫きその体を縫い止めるように柄の半ばをその身に埋めたまま穂先が地面に突き刺さった。
その後を追うように屋根の上から飛び降りると、体を痙攣させているワイルドボアに近づき、念押しとばかりに引き抜いた小剣を脳天に突き刺す。
それに対して反応がないことを確かめると槍を引き抜き、腰の革袋から布切れを取り出して柄に付着している血液を拭い取る。
血を吸ったそれはもう使い物にならないので死体の上へと投げ捨て、先程見つけたもう一体のワイルドボアがいる場所へと大きな足音を立てないように注意して向かう。
慎重に歩を進めていると、村の中央辺りから鉄を打ち震わせたかのような甲高い音が響き渡ってきた。
これが先程あの男が言っていた鐘の音だろうか? うん、たぶんそうだろう。
そう当たりをつけると、俺は足音を殺すのをやめて走り出す。
鐘が鳴り響いている今なら足音を隠して行動する必要はない。いや、むしろ急いであの魔物を討伐するべかきかもしれない。
あの魔物がこの音に引き寄せられてクレアたちの元に向かう可能性がある以上は、のんびりなんてしていられない。
クレアの戦闘能力ならあの程度の魔物の対処はできるだろうが、村人を守りながら戦うことになった場合あの突撃を受け止める手段を持っていないクレアには少し戦いづらい相手かもしれない。
そうなると、最悪の場合怪我をしてしまう可能性があるので、可能ならばその前に俺が始末をつけた方がいいだろう。
回復薬はできるだけ温存しておきたい。まだ戦いは始まったばかりなんだからな。