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会話

 二ヶ月後。

 早いもので鍛練を始めてからもう三ヶ月が過ぎたが、相変わらず俺はこの訓練所で鍛練を続けている。

 俺の一日は毎朝の自主トレから始まり、それが終わった後は文字学習のための絵本と睨めっこしている。そのおかげで最近ではギルドへの道すがらにある建物の看板の文字が多少なりとも読めるようにはなってきた。読むだけで書く方はまだ自分の名前と簡単な単語程度しか書けないが、それでも自分なりに成長を感じることができているので、少なくとも以前に比べれば確実に前には進めているだろう。

 そして、昼前に訓練所へ来てカイルたち三人組と模擬戦をし、途中休憩を挟みつつ夕方までゲインさんと模擬戦をし、それを終えたら家に帰る。

 家に帰った後は魔力操作の訓練をしたり、クレアの買い物に付き合ったり、スキル取得のためにあれこれ試したりしている。

 ……はい、そうですね。毎日鍛練に明け暮れる日々を過ごしているだけでろくに働いてませんね。

 ちがうんだよ? 今は冒険者として働くための下準備をしてるだけであって決してこの家に寄生してるわけではないんだ。というか、実際俺もタダ飯を食らっている今の生活は心苦しくなってきたので冒険者になるまでの繋ぎとして、空いている時間で何か仕事をした方がいいんじゃないかと考えて職探しに街へ出たことはあったんだ。でも、どこの店に行っても俺を雇ってくれる店はなかった。理由を聞くと皆きまりが悪そうな顔をして同じことを言った。いわく、どこから来たとも知れないやつを雇うなんてできない。とのことだ。確かに俺には身元を保証してくれる人間もいないし、見ての通りの異国人だ。そんな簡単に信用なんてできないだろう。店に何かあってからじゃ遅いんだ、従業員を選ぶのに慎重になるのは当然のことだろう。まぁそれでも、もし俺が美少女だったなら雇い入れてくれる店もあったと思うけど。可愛い娘が店に居ればそれだけで集客力が上がるんだから、本当に人の下心というものは計り知れない価値を生む金の源泉だ。

 そのおかげでミリオに借りた金もまだ返せてないし、回復薬も弁償できてないんだけどな…。

 それでも一応家事手伝いはしてるし、クレアの買い物にも付き合って荷物持ちとかもしてるしな。

 あ、そういえば荷物持ちで思い出した。

 いや、別に話を逸らしているわけじゃないからな。余計な詮索はしないように、いいね?

 ……それで荷物持ちの話しの前に何でクレアの買い物の荷物持ちをするようになったかって話なんだけど。

 これまでクレアは俺が帰ってくる前には既に買い物を終わらせて夕飯の下拵したごしらえを始めてたんだけど、一ヶ月前カイルとの模擬戦が終わった後からどうにか優秀なスキルを自力取得できないかなってことで、相手の考えを読める読心術のスキルの取得を目指してクレアに協力してもらってそのスキル獲得のために実験を始めたんだ。

 ……ちょっと言い方が悪くなるかもだけど、クレアって声を出せないから思ってることを読み取るには行動や仕草、癖や視線の動きなんかの些細な情報から感じとらないといけないわけだからそういう訓練には丁度いいかなって思ったんだ…こういう思考をしている時点で自分が最低の人間だということは重々承知してるからあまり責め立てるのはやめてほしい。心が死にそうになる。

 まぁ、その過程で本人の許可をもらって一緒に行動を共にしたり、家に居る時も動きを観察したり目だけで会話、はできなかったけど色々試していた結果。

 読心術のスキルは手に入らなかったけど、《思念会話》のスキルを取得した。

 このスキルは俺を中心に数十メートルの距離にいて、目視できる範囲にいる人としか繋げられないけど、継続的に少量の魔力を消費し続けることで言葉を発する必要なく頭で考えるだけで思念が相手に伝わり、会話できるようになる能力だ。

 このスキルのおかげで声を出せないクレアとも会話ができるようになった。

 能力を把握するために初めてクレアにこのスキルを使った時はかなりびっくりされた。

 落ち着きなく辺りをキョロキョロ見回して首を傾げていたけど俺が能力の説明をすると、おずおずと探るように「聞こえる?」と女の子らしく可愛い声が俺の頭の中に直接響いて「聞こえるよ」と反応を返すと表情をばっと明るくさせて興奮したように顔を赤らめてあれやこれやと話し掛けてきた。

 これまで会話をしたことがなかったから自分の意思を言葉に乗せて話せるという行為がよっぽど嬉しかったんだと思う。その日は結局俺の魔力がからっけつになるまでずっとお喋りが止まらなかったしな。

 で、元からある程度は仲良くしてたんだけどその日を境に急激に懐かれて今では毎日一緒に買い物に行く仲になった。

 つまり少女のハートをキャッチしてしまったわけだ。

 ……言っておくけど俺はロリコンではないのでどれだけ懐かれようとも変な気は起こさないので安心してほしい。本当に。

 それで、買い物の時は荷物持ち係兼会話要員として付いていくことになったんだけど、何日かしたあとガイドさんの声が聞こえてきて《荷役》の称号を手に入れ、それとセットで《重量軽減》のスキルも取得することができた。

 重量軽減は俺が持ったり身に付けたりしているものの重量が軽くなるスキルだ。

 このスキルのおかげで装備が今までよりもかなり軽く感じられるようになり、武器に関しては片手で振り回せるようになったほどだ。

 それにより、最近は両手に武器を持って戦うスタイルも視野に入れて鍛練に励んでいる。

 元々は読心術のスキルを取得するために始めたことがこんな方向に転がるとはまるで思っていなかったけど、結果オーライどころかある意味ではそれ以上の成果を得られたので俺としてはクレアにとてつもなく感謝している。

 たまにベッドに潜り込まれて、朝まで寝かさないぜ? とばかりに会話をせがまれても笑顔で許してあげられるぐらいにはな。…まぁ、朝が早いからなるべく勘弁してほしいけど。

 ともかく、こういうよく分からない条件でスキルや称号を手に入れられる以上はこれからも思い付いたことは積極的に色々と試していった方が結果的に効率が良さそうな気がしてきた。

 まぁ、それでもできる限り人に嫌われそうなことや自分の中にしこりが残りそうな、後味の悪くなりそうなことはしたくはないからそこだけは気を付けることにしよう。

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