警戒
火を見詰めてぼーっとしているだけでは眠くなってくるからだろうか、男たちは何かと話を振ってくるのでそれに答えたり逆に質問をしてみたりとしているうちに時間は過ぎていき、見張りについてからそれなりの時間が経ったこともあり少し眠気が顔を出してきた。
「んーっ、ふぅ。さすがにこの時間にもなってくると起きてるのが辛くなってくるな」
「そっすね。ところで、交代の人とかはいないんすか?」
「いや、一応いるよ。三交代制でやっているから、そうだなそろそろ代わりが来る頃かもしれないな。そっちは?」
「あぁ、こっちもそんな感じっすね。どうだクレア、まだ大丈夫そうか?」
『……うん……少し眠いけど……まだ大丈夫だよ』
「そっか。うん、じゃあもう少し頑張ろう」
クレアは俺の言葉に相槌を打ち、再度森の方へと視線を向けた。
さて、頑張ろうと言った手前俺が気を抜くわけにはいかないので、間違っても居眠りなんてしてしまわないようにしないと。
そうして、気合いを入れ直して少しした頃。
「ん? 今なんかあの辺りで葉が揺れなかったか?」
「え? どこっすか?」
「えっと、説明しにくいけど、正面の木から左に二本目の木の下の草むらだ」
「……んー」
「もしかしたら風かなんかで揺れただけかもしれないな。悪いな、少し過剰に反応しすぎたかもしれん」
「あー、いや、別に謝るようなことじゃないでしょ」
仮にそれが見間違いの類いだったとしても悪いなんてことはない。警戒するっていうのはそういうもんだと思うし。
でも、さっきからそんな強い風は吹いてないと思うんだよな。火は揺れてないし、それに一部の草むらだけが揺れたっていうのが怪しい。
動物か何かの可能性も十分にあるが、ここは確実性を上げるためにきっちりと調べておくべきだろう。疑念を抱いたままじゃもやもやして気持ち悪いしな。
「んじゃあ、一応俺ちょっと見てきますわ。もしもってこともあるんで」
「あぁ、そうだな。っておい、灯りは?」
「あー、大丈夫。俺暗いところでもちゃんと見えるんで」
焚き火の灯りに目を向けないようにしながら《感覚強化》で視覚を強化し、暗がりでも見通せるように夜目を利かせる。
手に持てる程度の光源では辺り一面を照らすようなことはできないので、見落としがないようにするためにはこうするのが一番だろう。
魔物がいた時に備えて盾と槍を手に持ち、先程男が言っていた場所へとゆっくり歩を進める。
手に汗が浮かび上がってくるが、心は落ち着いている。
初めての任務ではあるが、魔物との戦闘までが初めてというわけもなく、これまでに何度も経験していることだ。
もちろん油断をするつもりはないが、無条件に自分を低く見るつもりもない。
たとえ相手が格上の魔物であったとしても、よっぽどの強個体でもない限りは瞬殺されるということはないはずだ。
なら怯える必要はない。いつも通りにやればそれでいい。それで十分だ。