見張り
家々の隙間を抜けて森へと面した開けた場所へ行くと、村人と思われる二人の男性が焚き火を前にして魔物の警戒に当たっているようだった。
村長からは俺たち以外に見張りが立つとは聞いていなかったが、たぶんこの人たちは夜中に襲撃があった時に備えて交代制で警戒に当たっている人たちなんだろう。
こっちにそれを伝えてなかったのは隠していたとかそういうことではなく単純に忘れていたか、伝える必要はないだろうと思ったってところかな。
まぁ、実際に伝えられていたところで俺たちのやることに変わりはないので特に構わないと思い、せっかくなので俺たちも焚き火の恩恵を受けさせてもらおうとそちらへ近づいていく。
すると、その足音に気づいたのか二人の男がこちらに振り向き、怪訝そうな顔でこちらを窺っていた。
「ども、俺らも火に当たらせてもらってもいいすかね?」
「えっと、あんたらは?」
「あれ? 聞いてないかな? 冒険者ギルドから派遣されて来た者なんすけど」
「あ、あー!そういえばそろそろ冒険者が来てくれるって話になってたな。そうか、さっきの馬車に乗って来てくれたのか」
よかった、ちゃんと話は通ってたみたいだな。
一瞬不審者を見るような反応をされたからもしかしてその話を伝えてなかったのかと、村長に疑いの目を向けるところだった。
「あ、はい。そうっす」
「そういうことならここに座ってくれ。いやぁ、助かるわ。冒険者の人が来てくれたんならこれでもう安心だ」
「あぁ。でも、随分と早く来てくれたんだな。依頼を出したのはついこの間のはずだが」
「確か、この村の被害状況からして緊急性の高い案件だからってことで、すぐに行ってこいって言われて来たんでそのおかげっすかね?」
「おぉ、そいつはありがてぇ。うちは小さい村だから助けを寄越したりすんのは後回しにされんじゃないかって気にしてたんだが、ちゃんと考えてくれてたんだな」
「そっすね。まぁ、うちのギルドマスターはそういうところはしっかりした人なんで」
普段は割といい加減なところもある人だけど、人の上に立っているというだけはあって常に色々な考えを巡らせているのは出会ってからの月日でよく分かっている。
「それで、あんたが冒険者だっていうのは分かったが、まさかそっちのちっこい嬢ちゃんも冒険者なのか?」
「えぇ。分かってるとは思うけど見た目がどうだろうと強いやつは強いっすから。この子はこれでも立派に冒険者っすよ。戦闘に関してはかなりのもんだから今回の依頼にはぴったりの逸材だ」
「そうか。いや悪いな嬢ちゃん、別に見くびるつもりはなかったんだがどうしても、な」
『……うん……気にしてないからいいよ』
「……なんだ? 今、変なところから声が聞こえたような?」
以前にアクセサリーを売っていた商人との会話の時や、今朝カイルたちとクレアが初めて言葉を交わした時もこんな風に反応されたっけな。
カイルたちは俺のスキルのことを知っているし、その中に《思念会話》があることも知っているのですぐに順応してくれたが、やっぱりこの技術はかなり珍しいものなんだろうな。
ということで、アクセサリー商に話したのと同様の説明をすることで一応二人を納得させたので、俺たちも焚き火で暖を取りながら見張りに加わらせてもらうことになった。