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 「それでは今夜はここを寝床に使ってもらうとして、明日はよろしく頼む」

 「おう、任せとけ。ばっちり退治してやっからさ」


 そう言ってカイルが笑顔で答えると、村長の男は頭を下げて部屋から出ていった。

 村に到着した俺たちはこの村で一番大きな建物である村長の家を訪ね、事前に聞いていた魔物の数や被害の詳細などが今現在どうなっているのかを聞き、それと平行してその魔物をどう対処するのかを話し合った結果、魔物が現れるまではこちらからは動かないことに決めた。

 後手に回ることにはなるが、だだっ広い森の中に入り闇雲に相手を探すよりも向こうからこちらへやってきたところを倒す方が確実性が高いと思ったからだ。

 まぁそれで全部の個体を倒せるとは思っていないが、この村を襲えばそういう目に遭うということを身をもって教えてやればおいそれと村を襲うこともなくなるだろう。

 少々楽観的な考えではあるかもしれないが、完全に魔物を根絶やしにするための策は正直に言ってないので、緊急措置としてはそれで十分だとは思っている。


 「さてと、んじゃあ今日はもう寝るか。いつ魔物の襲撃がくるかもしれないから気だけは抜かないようにしてな。で、兄ちゃんとクレアは見張りよろしくな」

 「あいよ。いやー、このために昼まで寝ておいてよかったなー」

 「いや、何の嘘よそれ。何できた時から眠そうだったかクレアに聞いて知ってるんだからね」

 「……あ、そうすか」

 「あ、その話俺知らない。そういえば何であんな眠そうにしてたんだ?」


 その話に興味を持ったのか、カイルが疑問符を投げ掛けてくる。

 というかその話本人がいる前でするのか。


 「んー、まぁ事情が込み入ってそうだったから詳しくは聞いてないんだけど、色々あってクレアとアスマ君が勝負してたからあんまり寝る時間が取れなかったんだって」

 「は? 勝負? んなのやる意味あるか? 俺が勝てない兄ちゃんに勝てるやつなんて下級冒険者にそうはいないだろ」

 「ううん、クレアが勝ったみたいよ。勝負」

 「……え、まじ?」

 「あぁ、俺が負けたよ。条件つきではあるけど、本気で戦って負けた」


 俺の口から出た言葉が信じられないとでもいうように、カイルは「うっそだろ?」と驚愕の眼差しでクレアを見詰めている。

 まぁ、ぱっと見てクレアはそれほど強そうには見えないからそう思うのもしょうがないだろう。

 それに下級冒険者でも俺に勝てるやつなんて身近に三人いるんだし、そうおかしなことでもないと思うけどな。

 これはカイルが弱いという意味ではない。この世界には自分よりも強いやつなんてのはいくらでもいるんだという話だ。

 単純に上には上がいるし、冒険者じゃなくても俺より強いやつはいるだろう。

 知るということは大事なことだ。

 自分は強いと思い込んで努力を怠れば、いざ自分よりも強い敵に出くわした時に何もできずにやられてしまうだろう。

 でも、自分よりも上が、更にその上がいるということを知っていれば、そこを目指して自分を鍛え続ければいつかは何かを守れる自分になれるはずだ。そう信じることしか俺にはできないが、それでいいんだとも思っている。

 急激な強さを手に入れたところで使いこなせなければ自滅するだけだろうし、強くなる過程で得られるものというのもあるはずだ。

 俺は俺の大事なものを守れるようになるためにこれからも強くなりたいと思っているし、強くなる努力をやめることもないだろう。

 それがある意味では俺の最終目標だからな。


 「まぁ、強いやつなんて案外いくらでも身近にいるってことだ。それじゃあ、見張り行ってくる。行こうぜクレア」

 『……うん……行ってくるね』


 そうして俺たちは夜の森から魔物が現れないかを見張るために部屋を後にした。

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