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リリア

 「んーっ!」


 馬車から降りて伸びをすると、よほど体が凝り固まっていたのか関節が小気味良い音を鳴り響かせた。


 『……んっ』


 その隣でクレアが俺と同じように体をほぐすために伸びをしたかと思うと、上半身を折り曲げて前屈を開始したのだが床にべったりと掌がつくほどの柔軟ぶりを見せていた。

 ……相変わらず恐ろしいぐらいに柔らかい体をしてるな。俺なんて気張ってもギリギリ指先がつくかどうかってところなのに。


 『……アスマ君……どうかしたの?』

 「いや、何でもない。それより昼飯どうする? 何か動物でも狩りに行くか?」

 『……うーん……あんまりお腹空いてないから……私はちょっとだけこれを食べるからいいよ』


 そう言ってクレアが雑嚢から取り出したのは乾パンと干した果実だった。


 『……でも……アスマ君がお肉を食べたいなら……狩りに行くの……手伝うよ?』

 「あー、っとそうだな」


 朝飯をあまり食べなかったせいか、腹は割と減っている。だからできれば肉を食いたいところではあるんだけど、食べない相手を付き合わせるのは少し気が引けるんだが。


 「あー、いや、それだったら別に」

 「おーい!兄ちゃん、肉捕まえに行こうぜー!」


 いいや、と続ける前に少し離れた場所からこちらに向けて大きく手を振るカイルに、これまた大きな声で呼び掛けられた。


 「……」


 ちらりとクレアの方へ視線を向けると、『行っておいでよ』と言わんばかりに頷いている。

 向こうにはカイルとオリオンがいるので、ミリオの言っていた二人以上で行動するように、という決まりを破ることにはならないので行っても構わないんだが、そうなるとこの場にクレアを残して行くことになってしまう。

 今この場には俺とクレアに、カイルとそのパーティーのオリオン、リリア、ユーリが居て、御者の親父さんと、親父さんが個人的に雇っている護衛の男・マルスさんと数人の客たちがいる。

 ユーリは以前にはカイルたちのパーティーには居なかったが、訓練所から卒業していった後自分が入れるパーティーを探していたユーリを見つけたリリアが自分たちのパーティーに引き入れたんだそうだ。

 彼女は補助と回復、付与の魔術を扱うサポートタイプの魔術師だが近接戦闘もある程度はこなせるらしく腰に小剣を差している。

 だから仮に俺たちが狩りに向かったとしても、そういった人たちがいるから安心と言えば安心なんだが、俺と同じで割と内向的なところがあるクレアを一人ここへ残して行くのはいかなものかと思うわけで、さてどうしたものか。


 「ねぇ、ちょっといい?」


 俺がカイルたちに付いて行くべきかどうかを迷っていると、リリアとユーリがこちらに声を掛けてきた。


 「ん? 何だ?」

 「いや、アスマ君じゃなくてクレアに聞いてるんだけど」

 『……え?……私?』


 何だクレアに用か。……一体何の用なんだろ?


 「そそ、ねぇ貴女料理できる?」

 『……料理?……えっと……うん……できる……けど』

 「よしよし、それじゃあちょっとこっち手伝ってよ。おじさんにお鍋借りられたからあの馬鹿たちが帰ってくるまでにスープでも作ってようかなって思ってるんだけど」

 『……え……と……その』


 クレアは恥ずかしそうにもごもごと喋っているが、リリアは急かすようなこともなくきちんとクレアの返事を聞いてから話し掛けている。


 「アスマ君も向こうに行くなら一人で居ても暇でしょ? だったら一緒に料理をしながらお喋りでもして待ってましょうよ。ね?」

 『……』


 黙りこくってしまったクレアからリリアへと視線を向けると、リリアは顎でカイルたちの方を示して俺に「行って」と言っているようだった。

 ……あー、これはあれか。気を遣ってくれてるのかな?

 たぶん俺が迷っている理由を察してくれたんだろう。クレアの相手は自分たちがしておくから気にせずに行ってこい、という風に。

 うん、まぁ、あれだな。正直、クレアの交友関係については前から少し狭すぎないかと思ってはいたし、ある意味これは丁度いい機会なのかもしれない。

 別に無理をしてまで人との繋がりを大事にしろとは言わないが、それでもこれからは色んな人たちとかかわっていくことになるだろうし、最低限の人付き合いというものは覚えておいた方が後々便利に働くのは確実だ。

 ならここは少し可哀想かもしれないが、リリアに任せてみるのもありだな。


 「よし、じゃあ俺ちょっと向こう手伝ってくるから、クレアもそっちの手伝いでもして待っててくれないか?」

 『……あ……う』


 そんな縋るような目で見られると決意が揺らぎそうになるが、ここで折れたらクレアのためにならないので少し考えてクレアを勇気づけられるように言葉を掛けてみる。


 「大丈夫だよ。クレアだって前とは違って強くなってるんだからさ、少しの間俺が居ないぐらいどうってことないだろ?」

 『……うん……でも』

 「クレア、ネックレス出してみてくれ」

 『……はい』


 顔がくっつくほどの距離までクレアへ近づくと、俺は自分のネックレスとそれを合わせてクレアに微笑み掛ける。


 「大丈夫。目に見えなくても俺の心はいつでもずっとクレアと一緒に居るから。何かあってもクレアが呼んでくれたらすぐに駆けつけるから。だから大丈夫だ。な?」

 『……うん……すぐに戻ってきてね?』

 「あぁ、了解。すぐに戻ってくるよ」


 そう言ってクレアの頭を撫でると、踵を返してカイルたちが待っているところへと駆け出していく。

 リリアとユーリがぽかんとした表情でこちらを見ていたが、それは無視していく。できるだけ早く戻ってこれるように急がないとな。

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