出発
翌日。
「二人とも、荷物は持ったね。忘れ物はない?」
「……ん」
『……大丈夫』
ミリオの言葉に俺とクレアは眠気を隠しきれない返事をして頷く。
まだ日も昇っておらず周囲が闇に包まれている時間に、俺たちは出発の準備を済ませて家を出たところだった。
昨日、というか数時間前に俺とクレアの勝負に決着がついてすぐに家へと帰ってきたものの、戦闘をしたことによって精神が興奮状態にあったせいでなかなか眠ることができず、結局ほとんど睡眠を取ることはできなかった。
そのせいで先程から何度も目蓋が閉じそうになり、頭もふらふらしている。
正直、体調もあまり良いとはいえず疲労も抜けてはいないので出発前から既に限界状態だ。どうしてこうなった。
「ほら、しゃきっとする。早めに集合場所に着いておかないと、時間に遅れたら大変だよ」
「あぁ、分かってる、分かってるよ、うん」
『……ふぁぁー』
眠気でぼやけた目を揉みほぐしながら話半分で返事をする。その横ではクレアがあくびでもしたのか、空気が漏れ出るような吐息の音が聞こえてきた。……可愛いから別にいいけど、あくびは念話で伝えてこなくてもいいんじゃないかなとは思う。
「はぁ、初任務だっていうのに緊張感ないね二人とも」
「いや、正直眠すぎてそれどころじゃないんだけど」
『……眠い』
「ははっ、本当にもう。まぁ、そんなに眠いのなら移動中に少し眠らせてもらうといいよ」
「ん、そうさせてもらう」
『……うん』
というか、ミリオも俺たちと寝た時間は同じぐらいなのに何で眠くないんだよ。もしかして仮眠だけでも平気なタイプ?
「じゃあ僕が付き合うのはここまでだけど、クレアのこと頼んだよアスマ」
「ん、了解。任された」
「うん。クレアも、アスマのこと任せたよ」
『……うん……任されたよ』
……お? 俺も心配される側なのか? いや、まぁ、そうか。
「それじゃあ、頑張ってきなよ二人とも」
「おう、行ってくる」
『……行ってきます』
「うん、行ってらっしゃい」
ミリオに見送られながら、俺たちは手を振って家を後にする。
とりあえずは集合場所の北門に向かってカイルたちと合流するとしよう。
今日から約二、三日を掛けての任務になるわけだが、果たしてどうなることか。
まぁ、何にしても俺にできることなんてたかが知れているんだ。だから、俺は全員でまたここへ帰ってこられることを願って、やるべきことを全力でやろう。それが任務の成功へと繋がる一番の道筋になってくれるだろう。
でも、今はそんなことより早く寝たい。座席が硬かろうが揺れが酷かろうが、何だっていいから寝たい。
その気持ちに背中を押されて辿り着いた北門で、俺たちはカイルたちと合流して既に待機していた馬車に乗り込み、次に気がついた時にはもう昼になっていた。