勝負11
「そう。魔刃こそがクレアの切り札であって、不利な状況を引っくり返す逆転の一手なんだよ。アスマがそれを知っているからこそ、あの場面であの一手が生きてくるんだ」
ミリオはよっぽどその策略が気に入ったのか、楽しそうにその内容を語ってくる。
「実戦でもないのにまさか魔刃を使ってくることはないだろう、でももしかしたら、っていう思考を持たせることで実際にそれを使った時に相手の意識を全部そこに集められる。避けられるのは前提として、そうしてアスマの意識が自分から剣に移ったのを確認したところでクレアは《フラッシュ》の準備に入る。その後にわざと剣を手放すことでアスマの視線を《フラッシュ》の軌道上に誘導して、予想外の刺激を与えることでその思考を塗り潰して最後はアスマの感知能力に引っ掛からないように一撃を当てる。うん、本当によく考えられてるよ」
……なんだそれ。
勝負が再開してからのあの流れが全部クレアの掌の上のできごとだったってわけか? あり得ないだろ。相手の動きを誘導するとかどんな考え方をすればそんなことができるんだよ。
俺の意識を本命から逸らすために自分の切り札を囮にするなんて、俺には到底考えつかない大胆な策だ。
そういうのはミリオの専売特許だと思ってたけどクレアもか。本当にこの兄妹は底が知れないな。
……あれ? でも《フラッシュ》を準備していたことを何で《行動予測》で読み取れなかったんだろう? 発動するための条件が満たされてなかったのか?
そう思ってステータスから《行動予測》の詳細を調べてみると、それが意識を向けている対象の行動を予測する能力だということが分かった。
要は俺の意識がクレアから完全に短剣へと逸らされてしまっていたせいで発動しなかったということであり、意図的ではないかもしれないがこれもクレアに封じられてしまっていたというわけだ。なんてことだ。
『……アスマ君』
「ん?」
してやられたという気持ちで感慨にふけっていると、クレアから声が掛かる。
『……私……勝ったよ……だから……これで私のこと……ちゃんと認めてくれる?』
上目遣いでこちらを窺うように、クレアはこの戦いの原因となったことの決着をつけようとしてくる。
無意識だったとはいえ、俺がクレアの実力を侮ってしまっていたというのは事実なのだろう。
でも、あれだけの戦いっぷりと策を見せられて、しかも負けてしまったとなればクレアのことを心の底から認めるしかないだろう。
「あぁ、負けたよ。うん、完敗だ。強くなったなクレア。認めるよ、クレアがもう一人前だってことを」
俺のその言葉がクレアにとってはよほど嬉しかったのか、クレアは目の端からは涙をこぼしながらも、満面の笑みを浮かべていた。