勝負10
「最後の最後で一本取られたね、アスマ」
「……ミリオ」
呆然とクレアを見詰めていると、いつの間にか傍までやってきていたミリオから声を掛けられたので顔をそちらへと向ける。
「あぁ、やられたよ。油断はしてないつもりだったんだけど、あそこであんな連携を見せられるとは思ってもなかったからな」
崩れかけた体勢から上へ伸びてくるような切り上げ。予想はしていたので、魔刃を纏っていようがこれだけならば避けることは容易かった。
でも、その後に見せた《フラッシュ》による目眩ましまでは読みきることができずに、そのままあっさりとやられてしまった。
「ははっ。確かにあれは僕も上手いやり方だなと思ったよ。アスマに攻撃を当てようと思ったらいくつかの条件を掻い潜らないといけないから、それを考えると最善手だったんじゃないかな。うん、素直にすごかったよクレア」
『……えっと……えへへ……ありがとう』
あまりミリオから褒められることがないからか、クレアは少し戸惑うような気配をみせていたが、それでも褒められた嬉しさの方が勝ったのか笑みを浮かべている。
「……もしかして、さっき一度僕が勝負を中断させた時から狙ってたの?」
『……うん……アスマ君だったら……そこまで読んでくると思ってたから』
「そっか。うん、いい読みだね」
……なにやら兄妹間だけで通じ合っているようだが、正直何のことを言っているのかが俺には分からず完全に蚊帳の外になってしまっている。
「……あの、さっきから何の話をしてるんすかね?」
さすがに一人だけ話についていけないのは寂しいので、俺も混ぜてもらおうと二人に声を掛ける。
「あ、うん。えっと、そうだな。さっき僕が二人の勝負を止めたでしょ」
「あぁ」
「その後、勝負を再開させた時アスマはこう思ったんじゃない? もしかしたらクレアにはまだ何か奥の手が隠されているんじゃないかって」
「ん、確かにそんな風には考えてたけど、あの状況から勝負を再開させたんだから何かしら策があるって考えるのが普通だろ?」
実際その考えに間違いはなかった訳だしな。
「うん、そうだね。でも、そう考えた時点でアスマは既にクレアの術中にはまっていたんだよ」
「ん? え、何か今急に話が飛ばなかったか? 何でそうなる?」
「別に飛んではないよ。ところでアスマはクレアの奥の手って何だと思う?」
「え? そりゃ、魔刃かな?」
なんせ一撃必殺だからな。まぁ、相手にもよるけど硬くて刃が通らない相手だろうがお構いなしに斬り捨てることができるのが魔刃のすごいところだし。