スキル取得
「はぁっ!」
下段から振り上げられた木剣を、俺はなんとか紙一重で後ろに短く跳躍することでかわす。
続いて追撃の上段斬りを木剣を掲げることで受け止め、その後に飛んできた前蹴りを膝で受け止める。
相手は俺の膝を蹴った反動を利用して後ろに飛び退き距離を取った。
「やるようになったじゃん兄ちゃん」
「当たり前だろ。いつまでもガキにやられっぱなしの俺じゃねぇっての」
訓練所に通い始めてから一ヶ月が経った。
毎日毎日、限界まで体を酷使させられ続け、魔力操作の訓練で神経を削られ…てはいたんだけど、体の方に関しては自己再生の効果だと思うけど基本的に一日経てば全快するから然程問題にはならなかったし、魔力操作の方も最近はある程度はできるようになってきたからそれほど苦ではなくなってきた感はある。
つまり順調に鍛えられてきてるってわけだ。
…そして、鍛練の最中についに新たなスキルを手にいれることができた。
今でも思い出せるあの時の喜び。不意に頭の中に響いたあの謎の音声ガイドの声。…長いから今度からはガイドさんって呼ぶことにしよう。
ゲインさんとの模擬戦で何度も繰り返しやられ続けたことで発現したスキルは《危険察知》。
自分の身に危険が迫った時、直感的に襲い来る暴威に対して働く察知能力。
今までは相手の攻めに対して防戦一方になり、反撃をするどころか回避をすることもままならなかったのだが、このスキルを取得したことで攻めの起点を察知し、回避や反撃のタイミングを掴めるようになった。
それによって、それまではゲインさんの反撃に対して無防備を晒してやられっぱなしの俺だったが、回避や防御といった選択肢を取れるようになり、ようやく最低限の模擬戦という形に持っていけるようになった。最初の頃は模擬戦とは呼べないほどお粗末なものだったからな。
それにしても初めてゲインさんの攻撃を回避できた時は嬉しかったな。頭の中にガイドさんの声がして危険察知を取得。その直後によく分からないまま何となく攻撃が来る方向を察知して回避した時のゲインさんの驚いた顔は一生忘れられないだろう。
それまでは回避の前兆すら見せていなかった俺がいきなり攻撃をかわしたんだからそりゃ驚くだろうけどな。
そして、危険察知を取得してからはこの鍛練がスキル取得のために効果的だということが実感でき、より一層鍛練に励むようになったのだから俺は自分が思っていたより現金な人間だったみたいだ。
だが、その甲斐あって今日までに更に二つのスキルを取得することができた。
一つ目は《思考加速》。
たぶん危険察知を使い始めてからの俺の戦闘方法が変わったことが、条件を満たすことに繋がったんだろうと思っている。
それまでと違い、危険察知を使うことで相手の動きを限定的ながらも予想できるようになったことにより、相手の攻撃を対処した後の動きを考えたり、回避するにしてもどう回避すれば一番自分にとって都合がよくなるか、などあれこれと考えながら戦闘を行うようになったことが思考加速を取得するために必要な要因を作りだしたんじゃないかと思う。
思考加速は文字通り思考を加速させる能力だ。
その倍率はなんと十倍だ。つまり一秒を十秒に引き伸ばすことができる能力なわけで、戦闘においては有用どころの騒ぎではないほど優れた能力なんだが、もちろんそんな強大な力をデメリット無しで使えるはずもない。
この能力は使えば思考を加速させ知覚時間を十倍に引き延ばす代わりに、能力を使用すると使用時間に比例してとてつもない激痛が脳を襲うという凶悪な欠陥を持った能力だった。
一度使ってみた時には現実時間で六秒ほど思考を加速させただけで重い鈍痛が脳全体に走り、とてもじゃないが戦闘中に使うことができる代物じゃないということが分かった。
もしかすると限界突破を発動中なら痛覚無効の効果で使用することができるかもしれないが、痛覚無効だろうが脳に負担が掛かり続けることを考えると本当にここぞという場面で数秒間が限界なんじゃないかと考えている。
まぁ、普段使うことはまずない能力だ。
二つ目のスキルは《疾駆》。
これは単純に敏捷性を一時的に上昇させる能力で、戦士の咆哮の敏捷性バージョンだ。
だけど、このスキルの取得方法は少し特殊だった。
危険察知や思考加速の場合は『スキル取得条件を満たしました』とガイドさんが言った後に取得したスキルだけど、疾駆に関しては『称号《疾走者》を取得したことによりスキル《疾駆》を取得しました』と言うように、先に称号を取得してそれに付属する形で取得したスキルだ。
それで気付いたのは、もしかしたら称号は基礎能力を上昇させるだけでなくスキルも追加で取得できるものだったんじゃないかということだ。
不屈の闘士で不屈。死に損ないで…自己再生? 逆境の戦士で戦士の咆哮。みたいに称号に合わせてスキルを取得できるんだとすれば称号を集めればスキルも取得できて一石二鳥なんだけど、いかんせん称号の取得条件が分からない。
疾走者の称号も戦闘方法を模索中に緩急をつけて走り回ってたら勝手に取得できたからな。他の称号に比べるとあまりに楽に手に入った割には効果は似たようなものだし、本当によく分からん。
まぁ、瀕死の極限状態じゃなければ手に入らないわけじゃないと分かっただけでもよしとしておこう。
話は戻って。
あれから一ヶ月が経ち。今俺はゲインさんの生徒の三人組の内の一人。カイルと模擬戦をしている。
ここで鍛練をするようになってから一週間が過ぎた頃辺りに、少し早くこの訓練所に来た時に三人組が自分たちで模擬戦をしていたのを見学していたところにこのカイルが話し掛けてきていつの間にか俺も鍛練前の時間にここでこいつらと模擬戦をするようになっていた。
最初は正直思い出したくもないけど、俺が一方的に負け続けて危険察知を取得した頃から徐々に実力が拮抗するようになってきた。
スキルの力を借りてるから実力と言っていいかは分からないけど、それを言ったら相手もレベルでステータスを底上げしてるからこれで公平だと思っておきたい。
で、実力差がない以上は勝敗を分けるのは決め手があるかないかという話になってくるわけなんだけど、俺たちにはそれが欠けているのでなかなか決着がつかず、いつも先に集中力を切らした方が負けるという展開が続いていた。
決め手になるようなスキルでも手に入れば俺が勝ち越せるんだけど、まぁこの模擬戦も同程度の実力のやつと戦えるいい機会だから重宝してるんだけどな。
それでも、割と負けず嫌いの俺としては勝てるのであれば勝ちにいきたいんだよなやっぱり。
…何かスキルを手に入れる方法でも考えるか。




