勝負9
もしかしたらまだ何かを隠しているという可能性は十分にあり得るので、警戒することは忘れずにクレアの攻撃を捌いていく。
と、連撃の途中で不意にクレアがその身を跳ねさせ体重を乗せた渾身の一撃を放ってきたが、高威力ゆえにその攻撃は単純なものだったので盾でその刃を滑らせるようにして後方へと威力を逸らすと、あまりにも勢いが乗りすぎていたのかクレアの体が俺の真横を抜けるように流れていきそうになる。
それを見て俺は──クレアが倒れるその瞬間まで、警戒を緩めずにその姿を目で追い続ける。
何をしてくるのか分からない以上はここで不用意に警戒を解くのは悪手だ。いや、倒れてからも油断はならない。前にガルムリードと模擬戦をした時にはそれが原因でやられてしまったんだから、ここは最後まで警戒は続けるべきだ。
そして、その判断は正しかったようで、地面に倒れ込みそうになっていたクレアは鋭く前方へと足を踏み出すと、それを軸に体を半回転させ──《危険察知》が警鐘を響かせた。
「っ!?」
突然の警鐘に驚くが、現状を把握するためにクレアの動きへ全神経を集中させる。
すると《行動予測》により真下からこちらへと向け線が伸びていた。
その線を辿り、クレアの手元に握られている木短剣へと視線を向けると、剣の刀身に魔力が集まりそれが擬似的な薄い刃を作り出していた。つまりそれは、魔刃による必殺の一撃だ。
まさかそんな一撃を放ってくるなどとは思いもしなかったので驚きで息が詰まりそうになるが、油断をせずに動きを追っていたおかげで、その逆手持ちにした短剣の切り上げを回避することには成功する。
もしあれの直撃を受けてしまったら怪我ではすまないことになるので、少し大きめに体を引きつつもその短剣の刀身へと注意の視線を注いでいると、伸びきったクレアの手から短剣がこぼれ落ちた。
「は?」
間の抜けた声が自分の口から漏れ聞こえ、魔刃が失われた短剣へと向けていた注意は落ちていくそれを自然と追い、そしてその先にあったクレアの掌、そこから放たれた光に吸い寄せられ──俺の世界が光に塗り潰された。
「ぐっ!?」
爆発するような光を受け視界が白く染まり、強烈な光を取り込んだことで目に刺すような痛みが走る。
それを何とかするために無駄だとは分かっていても目を覆い隠すように掌で押さえつけた。
痛みはそれほど強いものではなかったようで、痛み自体はすぐに引いてくれたが、それとは別に何かが俺の胸を突くように押しつけられた。
それが何かを確認するために恐る恐る目を開き、何度かまばたきを繰り返すことでぼやけた視界の調整をして、目に映った光景はクレアが俺の胸に木短剣を突きつけているものだった。
『……一度でも攻撃を当てられたら私の勝ち……だよね?』
「……あ、あぁ」
『……じゃあ……私の勝ち……だね』
そう言って俺に勝利宣言を突きつけたクレアの表情はこれまで見たことのないほどに清々しいもので、思わず俺は言葉を発することすらも忘れてその表情に見惚れてしまっていた。