勝負
「それじゃあ二人とも、念のためにもう一度確認しておくよ。武器は木製のものを使用すること。できるだけ危険な攻撃は控えること。勝ち負けについては、アスマは反撃はなしで一部のスキルも使用禁止で一定時間クレアの攻撃から逃れれば勝ち、一度でも攻撃を受けたらその時点で負け。クレアはその逆で、時間内にアスマへ攻撃を当てられれば勝ちで、当てられなければ負け。実力差を考えれば条件はこの辺りが妥当だからね。それでいいよね。アスマ。クレア」
『……うん』
「……あぁ」
この場に居るのは俺、クレア、ミリオ。場所は街外れの訓練場。
唐突に決まった俺とクレアの勝負だが、何かあった場合の保険としてミリオにも同行してもらいそのついでに勝負のルールも決めてもらったが、そもそもなんなんだこれは? どうしてこうなった?
「乗り気じゃないのは分かるけど、手を抜きすぎるのは駄目だからね、アスマ」
「……分かってるよ」
俺の葛藤を知ってか知らずか、ミリオは釘を刺すようにそう言ってくる。……いや、ミリオのことだから俺の心中ぐらいは察してるか。
そのうえでこいつがこう言っている以上、この勝負にはそれなりに意味はあるんだろう。
でも、戦いたくないという気持ちに反して戦わなければならないというこの状況は、はっきり言って気が重い。やりたくない。帰りたい。
「うん、じゃあお互いに武器を手に向かい合って。始めるよ」
この戦いでは反撃を考えない防御主体になるので、俺は骨盾と木剣を手に取り、クレアはいつも通り両手に木製の短剣を握り、それを構えている。
そして、俺たちの準備が終わったのを確認してミリオは片手を上に持ち上げ、開始の声を上げると共にその手を勢いよく振り下ろした。
「──始めっ!」
合図と同時に、身を低くしたクレアが飛び出してきた。
以前までと比べてかなりの俊敏さだが、それでも常から自分より強い相手と模擬戦を繰り返してきている俺としては余裕を持って対応できる速さなので、僅かに腰を落として半身になり盾を前へと突き出してそれを待ち構える。
『……!!』
目前まで来たところで、クレアは更に身を低くしてこちらに向けて跳躍すると、身を捻りほぼ真下から盾の下部を掬い上げるような一撃を放ってくるが、慌てることもなく冷静に盾を傾けることでそれを正面から受け止める。
骨の盾と木短剣が勢いよくぶつかり、甲高い音と共に腕に衝撃が走るが、それは非常に軽い。
それが意味するところは、一撃目のこれは俺の意識を逸らすための速度重視の攻撃だということだろう。それを隠れ蓑にした二撃目こそが本命の──。
『……やぁっ!!』
気合い一閃。
クレアは全身を鋭く回転させるようにして盾の外側から潜り込ませるように、俺の腹部へと致命の一撃を突き込もうとしてくる。
盾は封じられ、木剣を持っている腕とは逆側から放たれたその一撃は昔の俺であれば、反応することも叶わずにあっさりとやられていただろう。そう思わせるほどの鋭さと意外性を突いた一撃だった。
だが、俺だってこれまで伊達に自分を鍛え続けてきたわけじゃない。
クレアの突きが脇腹に届く寸前、俺はその反対方向へと僅かに姿勢を傾けると膝を跳ね上げ、盾の縁と膝の間で木短剣の刀身を挟み込む。
『……!?』
その光景に驚愕するクレアをよそに挟み込んだ木短剣ごと体を回転させると、柄を掴んだままのクレアを強引に地面へと転ばせた。