準備9
「……」
そう、なのか?
クレアが言うように、俺はどこかでクレアのことをそんな風に思っていたのか?
分からない。仮にもしそうなんだとしても、無意識のうちにそう感じているのだとすればこうしていくら考えたところで意味はない。意識的に考えているわけではないんだから。
『……でもね……まだまだ弱い私だけど……それでも……ちゃんと戦えるようになったんだよ?……一人でも魔物を倒せるようになったんだよ?』
「それは知ってるよ。クレアが強くなっていくところを一番近くで見ていたのは、一緒に戦ってた俺なんだから。分かってる。分かってるはずだ……」
『……ううん……それは分かってるつもりになってるだけ……アスマ君はまだ……私のことを弱くて小さなクレアとして見てる』
そんなわけは、ない。とは言い切れない。言われてみると、確かに俺はクレアのことをまだ会って間もない頃と同じように、小さな女の子として見ているところはあるかもしれない。
見た目が華奢で、実際に背も小さいのだから仕方ないのかもしれないが、元の世界とは違いこの世界にはレベルという概念があるので、見た目がか弱い女の子だからといって必ずしも弱いわけではないということは知っているはずなのに、俺の中に存在している常識という名の枷がその認識を阻害してくる。
『……アスマ君が私のことを大事に思ってくれて……守ってくれるのは本当に嬉しいよ……でもね……普段の私はそれでよくても……冒険者の私はそれじゃ駄目なの!……私はアスマ君に頼るだけの足手まといでいたくないの!……ちゃんと私のことを冒険者として……仲間のクレアとして見て!』
「!?」
それはこれまでにクレアが自身の内に秘めていたのであろう感情の発露か。
見たこともないような強い眼差しで、聞いたこともないような真剣な声で、こちらに訴え掛けてきた。
「ク、クレア?」
『……ごめんね……大きな声出して……うん……分かってる……これは言葉でいくら言ったって伝わらないってこと……だからね……だから……アスマ君……今から私と……勝負して!』
「は? 勝、負?」
勝負? 俺とクレアが? 何でそんなことをしなくちゃいけないんだ? わけが分からない。
『……私じゃアスマ君には勝てないけど……それでも……アスマ君が無意識に考えてる……弱い私の想像を斬り捨てるにはこれしかないから!……だから……今すぐ私と戦って!』
何がどうしてそうなったのか理解が追いつかないままに、こうして俺はクレアと戦うことになってしまった。