ゲイン
『アクティブスキル《戦士の咆哮》発動』
まずは戦士の咆哮で筋力を上昇。
そして、強化された筋力で地面を思い切り蹴る。
普段とは比べものにならないほどの速度で体が跳ね、あっという間にゲインに肉薄する。
「ほう」
感心したような表情を浮かべ吐息を漏らすゲイン。
Lv1にしては大した速度だとでも思っているんだろうが、やっぱりこの程度の速度じゃ感心はしても驚きはしないか。
まぁいい、この模擬戦の目的は勝つことじゃない。この人にどれだけ食らい付いていけるかだ。自分の持てる力を発揮してとことんまで足掻いて、相手に自分という存在を刻み込むことが目的なんだ。
頭であれこれ考えたってどうせこの人の動きを読み取ることなんてできやしないんだ。なら、神経を極限まで研ぎ澄まして本能で戦え。それが今打てる最善手だ。
「お、らっ!」
初手から相手の脳天目掛け、上段の振り下ろしを放つ。
が、体を半歩ずらすだけの動作で軽くかわされてしまう。
当然そうなることはわかっていたので、次の動きに繋げるために体勢を低く保ったまま構えを切り替える。
そして、胴体に向け突きを放つ。
その攻撃もバックステップでかわされるが、動きに追い縋るようにこちらも跳躍し、肩越しに振り上げた木剣で袈裟斬りを叩き込む。
「らっ!」
だが、この一撃をゲインは避けようとはせず観察するようにその軌道を眺め、そして、下から振り上げた拳で木剣を跳ね上げた。
「は?」
素手で木剣を打ち上げるだと?
完全に予想外の行動に呆気に取られ、大きな隙を晒してしまう。
「攻めの姿勢や動きは悪くないですが、動きを崩されてからの復帰が遅いですね。これで一度死亡です」
そう言うとゲインは、両腕を跳ねあげられた俺の腹に鋭い蹴りを放った。
「がっ!?」
腹が爆発でもしたように強烈な痛みと熱が発生し、軽く数メートルは吹き飛びろくに受け身も取れずに床を転げる。
…いってぇ。体中を打った痛みもあるが、腹の痛みがヤバい。呼吸も浅くなって変な汗も滲んできた。
「はい。それではアスマ君は一度休憩です。次はあの子たちの相手をするので、それが終わったらまたさっきと同じように模擬戦をします。休憩中は魔力操作の練習でもしていてください。昨日魔法道具で魔術適性を調べたなら魔力の流れる感覚は覚えていますね? あの要領で体内の魔力を全身どこにでも移動できるようになってください。魔術を扱うならこの程度の魔力操作は必須ですので」
言うだけ言うとゲインは三人組の方へ向かっていった。
いや、ちょっとこの人スパルタ過ぎないか。見た目で優しそうとか思ってた俺がバカだった。
というか休んでる間も魔力操作の練習って…。体は休めても心が休まらないんですが。
しかもあの三人がやられたらまた模擬戦が始まるのか…。俺の体はそんなに頑丈じゃないんですけど、そこんとこ分かってますか。Lv1ですよ俺。
はぁ。でも今までの鍛え方じゃスキルは生えてこなかったし。そうなるとスキル取得のためにはこれぐらいの鍛練は必要になってくるんだろうな。考えてた十倍ぐらい辛そうなんだが。
というよりこの痛みが辛い。本当に痛みにはなかなか慣れることができないな。まぁ、今まで痛みとは無縁で生きてきたからな。すぐに慣れるなんてことはないんだろうな。
そういえばこの痛みでも限界突破は発動しないんだな。これで発動しないならどんな痛みなら発動するんだよ。ゴブリンに噛み千切られた時ぐらいの痛みがないと発動しないんだとしたら本当に極限でしか発動しないんだなあのスキル。発動してくれれば痛覚が無効になるから助かるんだけどな。せめて痛覚耐性のスキルをどうにか獲得出来ないもんかな。まぁ取得条件はなんとなく想像がつくから死ぬ気で努力すれば手に入れようと思えば手に入れれそうだけど、その過程でどれだけの痛みを味わわないといけないんだろうなって思うとそんな勇気は出てこないな。
っと、考え事に耽ってる場合じゃない。魔力操作の練習しないと。
えっと、あの時の感覚。んー…痛みで気が散って集中できないんだけど。…あの人これを分かってて俺にこんな指示を出したんだとしたら本当鬼畜野郎だな。
とりあえず魔力を感じるところから始めようか。
確か腹の奥の方、この痛みがあるところら辺。…これだ、昨日感じた自分の中にあるよく分からない力のうねりみたいなもの。
…あれ? 痛みを感じる場所と同じ場所に魔力があるってことはもしかして、あの人俺が魔力を感知しやすくするためにこの痛みを? …いや、そうだとしてもやり方が体育会系すぎるわ。
まぁでもかなり効果的だったのは確かだから教官としてあの人が優秀なんだろうなっていうのはなんとなく分かったような気はする。できればもう少しだけお手柔らかにしてもらえたら嬉しいなって思うけどな。
その後、三人組がやられて俺の順番が回ってきて、またやられて、三人組がやられて、俺がやられて、という地獄のようなローテーションが繰り返されその日の鍛練が終わるころには立ち上がるのも苦痛なほどに痛め付けられたのだった。
鬼や、この人鬼やで。




