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準備7

 その笑みが可愛くて可愛くて、思わずクレアの頬へと手が伸び、温かく柔らかな頬を撫でる。


 「あー、もう本当に可愛いなぁクレアは。ほっぺたもぷにぷにだし」

 『……ふゃ……くすぐったいよ……アスマ君』


 笑いを堪えるように目を細め、俺の手から逃れようと左右に頭を動かすクレアだが、逃がすまいと追撃を掛け更にその頬を弄んでいく。

 そうしてしばらく二人でじゃれあっていたのだが、不意に自身の心に言い知れぬ不安がよぎり、確認を取ることもなくクレアの小さな体を抱き締めた。


 『……アスマ君?』

 「……ごめん。ちょっとの間こうしててもいい?」

 『……うん……いいよ』


 そう言って、クレアは何も聞かずに俺の背中へと手を回すと、子供をあやすように一定のリズムで優しく背を叩いてくれた。

 それから少しして、いくらか気持ちが落ち着いてきた時。それを見計らったかのようにクレアがこちらへと声を掛けてきた。


 『……ふふっ……今日のアスマ君は……何だか甘えんぼさんだね……どうしたの?……何か不安なことでもあるの?』


 まるで俺の心を読んでいるかのような的確な問い掛けに、動揺から少し肩を震わせてしまうが、抱き締めた体から伝わってくる温かさに癒され、観念して心に溜まった感情を吐き出すことにした。


 「……俺さ、恐いんだよ」

 『……恐い?……明日の任務が?』

 「うん。いや、任務自体が恐いっていうか、魔物との戦いでもしクレアに何かあったらって考えるとそれが恐い。どうしても平静じゃいられない。前にウルフの群れに囲まれた時にも思ったことだ、クレアが害されるようなことがあったらどうしようって、クレアの笑顔が奪われたらどうしようって、それを守るのが俺の生き甲斐なのにそれを失ったらどうしようって」


 頭の中を巡る嫌な妄想から目を背けようとするが、想定外の出来事にも目を向けないと守れるものも守れないという使命感にも似た強迫観念が俺をそこから逃がしてくれない。


 「でも、あの時はまだ後ろにミリオが居てくれたから勇気を振り絞って戦うことができたんだ。けど、今回はそのミリオがいない。何かが起きた場合に全てを任せられる最後の頼みの綱がないんだ。俺は戦闘能力も、状況を把握する力も全然足りてない。そのうえ、今朝みたいに怒りに我を忘れて無差別に周囲へ力を振るってしまう可能性まである。そんな不安材料を抱えた俺に最後までクレアを守り切ることができるのかって考えると、どうしようもなく不安で心細くて、恐いんだ」


 先程までは未知の体験にわくわくするような気持ちを感じていたが、いざ就寝する前になってみれば、それまでは思ってもみなかったネガティブな感情が首をもたげて現実を直視させようとしてくる。

 クレアの笑顔を見て、それを失いたくないという気持ちが更に膨れ上がり、今にも破裂しそうなほどに嫌な想像ばかりが浮かび上がっては消えていっている。

 こんな体たらくで本当に明日を乗り切れるのだろうか? と、そんな不安ばかりが募ってくる。俺はどうすればいいんだろう?

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