準備4
「初めてのことなんだし仕方ないよ。何でも急にできるようにはならないんだし、その辺りはこれから少しずつ覚えていこう」
まぁ、確かに俺は初めから何でも察することができるほど優秀な人間というわけではないので仕方がないといえばそうなんだろう。
でも、仕方がないという言葉が通用するのは今のうちだけだ。いずれミリオたちに追いつくために、これからはどんな知識だろうが技術だろうが貪欲に吸収していく必要がある。
駆け出しの冒険者という、周りから便宜を図ってもらえる立場にいつまでも甘えているわけにはいかない。こうして与えられているうちに冒険者として最低限の立ち回りと予備知識は頭に叩き込まないと。
「……そうだな。うん、頑張って覚えるよ」
「うん。クレアもアスマにばかり頼ってちゃ駄目だよ。冒険者になった以上は物事を自分で考えて行動できるようにならないと他の人の足を引っ張ることになりかねないからね」
『……うん……頑張る』
新たに決意を固めてミリオへと返事をすると、それに合わせるようにクレアもミリオへと真剣な表情で返事をしていた。
……俺は幸運だ。
こうして色々な知識を与えてくれる人が身近に居て、守りたいと思う大切な相手も居る。
強さを求める理由も、強くなるための土台もある。
これだけの条件が揃っているのなら、もう何も躊躇う必要はない。この両手が届く範囲の全てを守れるように、自分の世界を形作るのに必要な者を守れるような強さを手に入れよう。その手始めとして、まずは一つの村を脅かしている魔物には糧となってもらう。俺が、人外の者へと近づくための糧に。
「それじゃあ今度こそ僕からの話は終わりだから、二人とも明日に備えて早く休んだ方がいいよ」
「だな。んじゃ、寝る準備でもするとしようかな。っとそうだ、色々ありがとうなミリオ」
改めて言うと、何となく気恥ずかしい感じがしたので少しぶっきらぼうな物言いにはなってしまったが、それでも感謝の気持ちは伝えておきたかったのでミリオへとお礼の言葉を掛ける。
「いいよ、これぐらい。君たちが強くなるためなら僕も協力を惜しむつもりはないからね」
「ははっ、そうだったな。まぁ、だとしてもありがたいって気持ちに変わりはないから、やっぱりありがとうってことで」
「そう。それじゃあ、こっちもどういたしましてって言っておくよ」
そうして互いが笑みと共に拳同士をぶつけ合わせると、ミリオは自身の部屋へと戻っていき、扉に手を掛けた状態でこちらに振り向くと、一言「お休み」と言って部屋の中へと入っていったので、俺とクレアも部屋の中へと届くように「お休み」と声を掛け、就寝準備を始めたのだった。