報告15
「まぁ、《フラッシュ》はただ相手の目を眩ませるといった程度の魔術なので、あまりクレアちゃんの役には立たないかもしれませんけど」
『……ううん……そんなことないよ……シャロちゃんの気持ち……すっごく嬉しいよ……でも魔晶石って……すごく高価なものなんじゃないの?……本当にもらっちゃってもいいの?』
確かにクレアの懸念も当然だろう。ブレスレットに埋め込まれている魔晶石は、以前に俺が鍛冶屋へと持っていった魔石と比べれば小さなものではあるが、様々な加工を施して魔具として生まれ変わったその装具が安価であるはずがない。……下手をするとあの魔石以上の値がする可能性も十分にあるんじゃないかとさえ思える。
「どうぞどうぞ。先程も言いましたが、それは以前にボクが自分で作ったものですから材料費も製作費も実質ゼロなので特に気にする必要はありませんよ。……できるのであれば肌身離さず身につけて、大事に扱ってくれるのであれば嬉しいですかね」
『……うん……分かった……この子のこと……シャロちゃんだと思って大事にするね』
クレアはそう言って胸元に寄せたブレスレットを左手で優しく撫でて、シャーロットに満面の笑みを向けた。
「……はい。本当に困った時にそれが役に立ってくれるように祈っておきますね」
それにいつもとは違う種類の笑みで返したシャーロットは、気を取り直すように一度後ろへと振り返り、「あっ」という言葉と共にこちらに向き直る。
「そういえば弟子にもお祝いの品物を何か用意しないといけませんね。何がいいですか?」
「え、俺にも何かくれるの? あーいや、何がいいとか言われても急には出てこないんだけど……」
欲を言うならば、俺もクレアがもらったような魔具が欲しいところではあるが、さすがに自分からはそんなこと言い出せないし、だからといってあんな高価なものを軽々しく渡されても困る気はするから……やっぱりいらないかな。
「……うーん。よし、分かりました。あれにしましょう」
シャーロットはそう言い残して薬が納められている棚へと近づいていくと、両手で一本ずつ小瓶を持ち上げてこちらへ戻ってきた。
「では、弟子にはこの秘薬を進呈しましょう」
「おお、秘薬。……ってこれ回復薬じゃない?」
確証はないけど、もうさすがに見慣れたこの赤い液体は回復薬の色のような気がするんだけど、違う種類のものなのか?
「はい、回復薬ですよ。当店自慢の高品質な回復薬です。ボクの中では秘薬と呼んでも差し支えのないものだと自負しています」
……一緒なんかい。言ってることに間違いはないから訂正するようなことはないけど。
「……おう、そうだな。いやまぁ、でも実際かなり助かるよ。ありがとう先生」
「ええ。存分に感謝してください」
シャーロットから差し出された二本の回復薬を受け取り、ポーチへと納める。
「さて、それでは今度こそ本当に時間が時間ですので、そろそろお二人は帰った方がいいでしょうね。ということで、最後にもう一度言っておきます。お二人共、おめでとうございます」