魔術適性
「そういえばミリオは魔術適性ってどうだったんだ?」
「僕は全部の属性に適性があったよ」
……は?
「全部?……そういうのってさ普通二つか三つぐらいじゃないのか? え? それが普通なのか?」
「いや、すごく驚かれたよ。こんなの初めて見たってね。実際全部の属性に適性がある人は滅多にいないみたいだし」
やっぱそうだよな。全属性の魔術が使えるなんてゲームでも賢者とかの魔術職に就いてる中でも限られた職業だけのはずだ。
今まで何となくミリオは平均的な一般冒険者だと思ってたけど、もしかしてこいつもアンネローゼと同じぐらいの規格外なんじゃ……。
「でも、僕は魔力強度が低いから下位魔術しか使えないんだ。全属性の魔術に適性があるって言っても本当に適性だけがあるだけなんだよ」
「魔力強度、か。そういえばそんなことも言ってたな。でも一通りは何でも使えるんだろ? すごいと思うんだけどな」
「何でもは、無理だよ。回復魔術なんかは魔力強度がある程度高くないと使えないし、他の魔術にしても魔力強度が低いからどうしても威力が落ちちゃって決定打には欠けるしね」
「そういうもんか」
「そういうもんだよ。全属性に適性があるのにギルドマスターが僕のことを知らなかったのも、結局取るに足らない存在ってことで話が通ってなかったってことなんだと思うし」
「……そっか」
せっかく適性があるのに使えないっていうのはもどかしいよな。
何とかして魔力強度を高めたりはできないのかな?
いや、できるならもうやってるか。そりゃそうだよな。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
そうこうしているうちにテレサさんがその手に透明な水晶玉のような物を持って現れた。
なんか占い師が持ってそうな玉だな。それで、俺の適性を占ってくれたりするんだろうか。
「その水晶が魔道具? それで適性が調べられるの?」
「はい。昨日の鑑定石と同様に手で触れていただきます。ですが、こちらの魔道具は起動させるのに魔力を注いで戴く必要があるのですが、アスマさんは魔術を扱った経験はありませんよね?」
「ないっすね」
「でしたら魔力の操作もできませんか?」
「そうっすね」
「はい、分かりました。それではこちらの魔道具に手を触れた後に、マジックスキャンと唱えてください。そうすれば自動的にこちらの魔道具が魔力を吸収し起動させることができます」
「魔力を吸収って何かちょっと怖いような……」
「ご心配なく、ほんの少量ですので。あ、あとできればその時に体内の魔力の動きを覚えておいてください。その感覚が魔力操作の基本となりますので」
「うぃっす」
さぁ、どんな結果になるかな。楽しみだけどちょっと怖いような。
まぁ、渋っててもどうせ結果は変わらないんだし、さっさとやるか。
「《マジックスキャン》」
おっ。体の中心から何かが水晶に向かって抜けていくのを感じる。これが魔力か。
で、この感覚が魔力が流れる感覚か。覚えておけるかな?
あ、水晶玉が光り出した。感じ的には鑑定石と似たような感じだけど、これも窓みたいなのが出てくるのかね?
と、思ったけど光はそのまま水晶玉の中に収束し、それがそのまま文字のようなものになり、それをテレサさんが紙に書き写していく。
その後、すぐに光は消えてなくなり、水晶玉は元の無色透明に戻っていた。
「これで終わり?」
「はい、結果は出てますので読み上げますね」
「うん」
「まず適性についてですが、水と風、回復と補助魔術に適性があります」
おぉ。結構適性あるな。でも、できれば火属性が欲しかったんだけどな。火って格好いいし。強そうだし。
まぁ、水とか風も使い勝手は良さそうだからいいんだけどな。
「続いて魔力強度ですが、特に問題はなさそうですね。これなら中位の魔術までなら扱えるので、明日から魔術の訓練も頑張ってくださいね」
「おっす。ありがとうございました」
……中位魔術まで扱えるってことは、ミリオよりも魔力強度は高いってわけか。
あー、さっきの話を聞いた後だとちょっと気不味いというか、心苦しいんだけど。
ミリオ、今どんな顔してるんだろ?
恐る恐る後ろを振り返ってみる。
「良かったじゃないアスマ。中位魔術まで扱えるほどの魔力強度なら回復魔術も補助魔術も使えるし、水と風の魔術も色々な魔術を使うことができるよ」
……笑顔だった。
本当にこいつは。正直少しぐらいは不機嫌な表情でも浮かべているかもって思ってたけど、こんな時でも笑顔なんだな。
お人好しというか何というか、いいやつなんだよな。
やっぱりそういうとこは勝てねぇな。
一瞬でもちょっと勝った気になってた自分が馬鹿みたいに感じてきた。
今まで一つも勝てたことがなかったから本当にちょっとだけ嬉しかったんだけど、うん。人として色々負けてばっかりだな。
でも、ミリオがミリオで良かったって再確認できたな。
たぶんこっちに来てから一緒に行動していたのがミリオじゃなかったなら、俺はちょっとしたことですぐに調子に乗って死んでいただろうな。
こいつのそういう姿勢は見習うべきところばかりだ。
……本当にな




