合同9
そうして、漠然とした不安のような焦りのような感情に胸を締めつけられ、それを堪えるために膝の上で拳を固く握り締めていると、不意に真横から伸びてきたクレアの柔らかな手がその上にそっと重ねられる。
俺の纏っている雰囲気だけで心の機微を察したのか、クレアは『大丈夫だよ』と言わんばかりにこちらに優しく微笑み掛けてくれていた。
ただそれだけのことではあるが、そこから伝わってくる温もりと安心感に強く固められていた拳は解きほぐされ、それと同時に心に募っていた負の感情も浄化されていった。
この笑顔だ。
この笑顔がいつでも俺に前へ進むための力を与えてくれる。沈み込んだ気持ちを引き上げて、この心に強さを与えてくれる。
俺は何度もこの笑顔に癒され、そして救われている。
だからこそ俺はこの笑顔を守るために、守り続けるために強くなろうと思った。この笑顔を曇らせるようなことから守り抜くために強くなろうと思った。
それを再確認して一つ大きく息を吐くと、それで意識の切り替えは完了する。
……よし。
もう大丈夫だということをクレアに伝えるために力強い笑みを返すと、クレアもそれで安心したのかより一層その笑みが深いものになっていた。
「ま、お前らはまだまだ発展途上だからな、焦ることはねぇよ。これからも鍛え続けてそのうちに追いつきゃそれでいい」
「そうだな。何でも急に上手くできるようになるわけでもないし、当面はあれを目標にして地道にやっていくしかないよな」
特に技術的な部分に関してはまだまだ多くの課題が残されてるからな。今は先のことを考えるより一つ一つ段階を踏んで自分を高めていくことに専念しよう。
「あ、じゃあさじゃあさ、兄ちゃん俺とどっちが先に中級に上がれるか勝負しようぜ!」
と、俺が地道にやっていこうという決意を固めたところで、唐突にカイルがそんなことを言い出した。
「そっちの方が張り合いがあって楽しそうだしさ。な、いいだろ」
「まぁ、お前がそうしたいのなら別にいいけど、それが原因で大怪我とかしないようにしろよ?」
「分かってるって。んじゃ、今日から俺らライバルな!」
そう言ってこちらに拳を突き出してくるカイル。
それに応えるように、その拳へ自分の拳をぶつける。
「うっし! 気合い入ってきた!」
戦う前でもないのに今からそんなに気持ちを昂らせてても大丈夫かとは思うが、まぁこれでもカイルはパーティーを率いてるリーダーみたいだから自己管理ぐらいできるか。
「はっ、勝負事もいいが、今はこいつの話をさっさと終わらせんぞ。ほれ、次いくぞ次」
グランツさんがまとめるようにそう言ってこちらを嗜める。
そして、その後の話し合いでいくつかの取り決めをして今回受ける任務についての説明がようやく終わった。




