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「というかさ。兄ちゃんが中級の人らとやり合ったっていう話は聞いてたけど、もうそんな人らと互角に戦えるぐらいに強くなってたのかよ? まじで?」
ゲインさんとの話に区切りがつくのを待っていたのか、その直後にカイルがそう言ってこちらを信じられないという風な驚愕の表情を浮かべて見てくる。
「いや、何でそうなるんだよ? あんなのと互角で戦える訳がないだろ?」
「え? でもさっきそこそこいい勝負してたって言ってたけど?」
「ないない。あの人たちがゲインさんに何て言ったのか正確には知らないけど、普通にボロ負けだったよ。技量に差がありすぎて話にもならなかった」
こっちは《限定解除》まで使って全力を出して戦ったにもかかわらず、まともに一撃を入れることもできずに一方的に無様を晒しただけだ。
それにあの時は《獣の衝動》という、自身の精神を怒りで染め上げると同時に肉体を強化するスキルの効果で《赤殻》がとんでもない堅牢さを発揮していたので打撃を全て無効化できていたが、それがなければもっと簡単に意識を刈り取られていた可能性が高いしな。
……思い出してみれば本当に大惨敗だな。本気も出してなかったっぽいし。
「そうなんだ。でも、俺よりも強い兄ちゃんが負けるぐらいだから、その人らが中級冒険者の中でも特別に強かっただけとかってこともあるんじゃないの?」
「いや、それもないだろうな。さっきゲインさんがこう言ってただろ、「下級の冒険者とは思えないほどの」って。あれって俺が下級だからこそ出てきた言葉だと思うんだよな」
俺が下級の冒険者だから、自分たちよりも圧倒的に格下の存在だから。
「ってことは」
「あぁ、中級ならその程度の力を持ったやつは珍しくないってことだと思う。ゲインさん、ちなみにあの二人って中級の中ではどのぐらいの強さなんすか?」
色々な人を見て、育ててきたゲインさんならそのことについて良く知っているはずだろう。
「そうですね、あの二人は中級冒険者の中で言えば平均的な強さと言ったところでしょうか。実戦慣れもしていますし、技量的にも熟練の域に到達していますが、突き抜けて優れている部分を持ち合わせてはいませんから」
「……まじかよ」
「……やっぱりそうなんだ。そっか、中級ではあれが普通なんだ。ははっ、遠いなー」
見上げた壁の高さに思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
あの強さに辿り着くまでにはあとどれぐらいの鍛練を積めばいいんだろう? どれだけの経験を積めばいいんだろう? そう考えるだけで気が遠くなりそうになってくる。




