条件
「というわけで、再びやってきました。冒険者ギルド」
「昨日は結局最後まで話ができなかったからね」
それは言わないでくれよミリオさん。
俺だってできれば昨日のうちに用件は全部済ませておきたかったんだ。でもまさかスキルの検証中に気絶しちゃうなんて予想してなかったんだからしょうがない。
抗う意志さんも万能じゃないんだからそういうこともあるんだろうが、もう少し段階的に調べてほしかったもんだ。
いきなり本気の魔術を仕掛けてくるのは反則だよ。
「まぁまぁ、その話は一旦置いておくとして。昨日ギルドマスターに明日また同じ時間に来るように言われたんだよな」
「うん。アスマの用事がまだ済んでなかったから、次に時間を取れる日を聞いてみたら明日の今頃なら手が空いてるだろうからその時間に来いってね」
「いつも手間掛けさせてすまんね。助かりますわ」
「いいよ別に。これぐらい大したことじゃないしね」
本当にイケメンだなこいつ。
俺が女なら間違いなく惚れてるわ。知らんけど。
「さ、行くよ」
「うぃ」
今回もミリオの後ろに潜みながら冒険者ギルドの中へ入っていく。
このポジションだけは譲れない。ある意味この世界での俺の一番の安全地帯だからな。
扉を開くと昨日と同様に鈴の音が鳴り響き視線がこちらに集まる。
でも、今日も昨日と同じであまり人はいないみたいだな。
まぁ、その方が変に気を張らなくていいから嬉しいんだけど。
視線を向けてくる人の中にテレサさんもいたので、彼女のもとに歩いていく。
「こんにちはテレサさん。ギルドマスターいる?」
「はい、こんにちは。ええ。ギルドマスターから貴方たちが来たら自分の部屋に連れてきてくれと言われているので、またご案内いたしますね」
「どもっす」
よし、自然に会話できた。
まぁ、昨日も自然を装って会話はできてたけど、内心では結構どぎまぎしてたからな。今は割と平常心を保ってる。
やっぱり慣れればこれぐらいどうってことはないんだよ。さすがは俺だ。素晴らしい。
まぁ、昨日魔術で気絶させられたっていう経緯があるから若干苦手意識のようなものが無いでもないけど。
「そういえば、昨日はすみませんでした。つい興がのってしまったばかりにあんなことになってしまいまして」
「いやいや、別に気にしなくもいいよ。やっていいって言ったのはこっちだし」
「それでも限度は弁えるべきでしたので、本当にすみませんでした」
「うん、分かった。謝罪は受け入れるよ」
「ありがとうございます」
真面目さんだなー。
でも、そうだ。本気を出してもいいか聞かれて許可を出したのは俺だ。
それなのに苦手意識を持つっていうのはさすがにちょっと自分勝手な気がするな。うん。なるべくこの感情は早く捨てられるように努力しよう。努力でなんとかなるかは知らんけど。
その後、テレサさんにギルドマスターの執務室まで案内してもらい、昨日ぶりの強面と再会する。
「よぉ、アスマよ。元気になったみたいだな」
「うっす。昨日は途中で倒れちゃって申し訳なかったです」
「はっ、気にすんな。スキルの効果を見ることはできたんだから問題はねぇよ」
そう言ってもらえるなら助かる。
急に倒れたから、正直情けないやつと思われてないかちょっと心配だったんだよ。よかったよかった。
「そんで? まだ俺になんか用があるってそっちのミリオから聞いたが、どんな用件だ?」
「あぁ、はい。えぇそれなんですが、ちょっと相談事があって」
「何だ、言ってみな」
一日間を置いたせいで、改まると言いづらいな。
いや、でもこういうのは勢いが大事だ。ほらグランツさんも言ってみろって言ってくれてるんだ。いけ、言え。
「その、レベル1の俺でも冒険者にしてもらえないでしょうか!」
よし、言えた。
言えたけどまだ止まるな。今の言い方じゃ俺が冒険者になるための最低条件を知らないと思われて呆れられるかもしれないし、もっと言葉を重ねてまくし立てろ。
「いや、あれっすよ。冒険者になるにはレベルが最低でも5はないと駄目だってことは分かってるんすよ? でも、昨日も言った通り俺ってレベルが上がらないですし、でもその代わりスキルがあるんで戦闘能力的にはただのレベル1よりも優れてるっていうか、それに鍛練を続けてればスキルを取得できる可能性だってあるし、まだまだ伸び代は全然残されてるっていうか……」
「あぁ、いいぞ」
「いいぞって、そうですよねいいに決まってますよねー……っていいんすか!?」
「おう」
……えぇ? 何かすごいあっさりオッケー貰えたんだけど。
あれ? 条件は? マジでいいの?
「レベル5になることがギルドに入る条件だって勘違いしてるやつがいるが、それデマだからな」
「は?」
デマ? だと?
思わずその条件を俺に教えてくれたミリオの方を振り返るが、ミリオも知らなかったのか驚いた表情で首を左右に振っている。
「まぁ、デマだが間違っているわけでもないから敢えてその噂はそのままにしてあるんだがな」
「……えぇー」
「本来は、ある程度の戦闘能力と魔物との戦闘経験がありゃ許可をだすんだが、レベル5以下のやつなんてまぁ戦闘に関しちゃ素人もいいとこなうえにステータスも低すぎて話にならねぇからな」
「それを言ったら俺もそこまで大したステータスないですけどね」
スキルで筋力だけは嵩増しできるけどそれ以外は全然大したことないレベル1のステータスだからな。あ、耐久力もちょっとは高いか。
「あぁ、だからお前は俺が出す条件をクリアしたら冒険者の資格をやるよ」
「条件?」
「あぁ、まずは一つ目の条件だが、筋力以外のステータスを強化できるスキルを覚えること。そのためにここの訓練所を好きに使ってもいい、ゲインに話は通しておくからあいつに鍛えてもらえ」
「うっす」
「二つ目は、一つ目の条件をクリアしたら教えてやるからとりあえずはこの条件を目標にして鍛練に励め。分かったか」
「おっす」
「おし、あー後テレサ。こいつの魔術適性も調べておいてやれ。それ次第じゃ戦力を大幅に増強できるからな」
「はい。承りました」
「魔術の指導に関してもゲインに任せれば大丈夫そうだな。なら今日は適性調べたら帰りな。明日っから訓練できるように話つけとくからよ」
「あざっす。失礼しました」
一礼をして部屋から退室する。
何かトントン拍子に話が進んで考えが追い付いてないんだけど、これはあれだな。
……よっしゃー! やったぞ。やってやったぞ。
条件付きではあるけど、何とかここまで漕ぎ着けた。
いや、正直駄目元だったから無理って言われたらどうしようかって思ってたけど、まさかオッケーを貰えるとは。
これは日頃の努力が実を結んだ結果か? いや関係ないか。
でもマジで嬉しいな。スキップとかしちゃいそうになるぐらい嬉しい。
「アスマさん。私は準備をしてから行くので、先に受付横に設置してある長椅子に座って待っていてください」
「あ、はい」
……浮かれてて忘れるところだった。
そういえば魔術適性を調べるんだったな。
というか、魔術適性! そうだ、ギルドに来たならそれも調べようと思ってたんじゃないか。
最近レベルのことであれこれ悩んでたから完全に忘れてた。
でもそうか、これで適性があれば俺も魔術を使えるのか。すげぇ、本当に一気に状況が進展してきたぞ。
これならそう遠くないうちに冒険者になれそうな気がしてきた。
魔術適性、いい結果が出るといいな。




