屋台
そう思い、周囲に気を配りながらこの混雑の中を抜けようとして、もう少しで人のまばらになっている通りに出られそうになったところで、俺たちの目の前に揉み手をした男が立ちはだかった。
「ども、そこのお兄さん。ちょっとお時間いい?」
俺と同年代ぐらいのその男は、腰を低くしてこちらの反応を窺うようなにこやかな笑みでこちらへ声を掛けてくる。
……これはあれか、呼び込みってやつなのかな?
バイトをしてた頃にも居酒屋の前を通ったりした時はよく声を掛けられたもんだけど、正直に言ってこういう人たちにはあまり良い印象を持っていない。
相手も仕事だからやっているのは分かっているし、もしかしたら客引きにもノルマというものがあるのかもしれないが、大抵の場合こういった輩は無視しようが断ろうがしつこくこちらにまとわりついてくるからだ。
まぁ、相手によっては一度断れば引いてくれることもあるので一概に悪者扱いするのもどうかとは思うが、苦手なものは苦手なのだから仕方ないだろう。
「えっと、ごめん。見ての通り女の子連れなんで、空気読んでくれると助かるんだけど」
変な店に連れて行かれても面倒なのでいかにもデート中なんで邪魔しないでくれということを暗に伝えるが、男は笑みを消すこともなく「いやいやいや」と言いながらこちらに迫ってきたので、少し警戒心を高め体を捻ることでクレアを自分の後ろに下がらせる。
「だからこそお兄さんに声掛けたんだって」
「いや、だからさ」
「あれだよ、自分別に怪しい者じゃないよ?ほらそこ、そこが自分の店なんだけど、そっちの可愛らしい彼女さんに贈り物でもどうかなって思って声掛けさせてもらったんだよ」
「お?」
男の放った可愛らしい彼女と、贈り物という単語に反応して声を上げ、その手が示す店のある方へ視線を向けるとそこにはやっつけ仕事で組み立てられたような屋台があり、机の上には銀細工のアクセサリーが並べられていた。
「どうどう?興味ない?今ならお安くしとくよ?」
こちらが反応したことを目敏く察知した男は、畳み掛けるように俺に声を掛けてくる。
「……ちょっと、だけ見せてもらおっかなー」
「おお、どうぞどうぞ。いらっしゃい、ようこそー」
あれこれと断るための言葉だけを頭の中で考えていたので、何となく気恥ずかしい気持ちになりながらも男の誘いに乗ることにすると、男は笑顔をより一層深め大きな動作で自分の店へと俺たちを案内してくれた。
うん、まぁ、あれだ。……邪険にして悪かったな兄ちゃん。




