スキル検証
「…意地悪が過ぎますよ、グランツさん」
ギルドマスターの一言に驚愕していた俺を他所に、受付さんが呆れた表情でギルドマスターに苦言を呈する。
「はっ、軽い冗談じゃねぇか。そう目くじら立てんなってテレサよ」
それに対しギルドマスター・グランツさんは軽い感じで肩を竦めてみせる。
…受付さんってテレサって名前なんだ。
というか…。
「…冗談?」
「はい。この人、こんな見た目のくせによく子供っぽい悪ふざけなんかを仕掛けてくるんですよ」
「くせにって、相変わらず俺に対しては辛辣だねぇ」
「ギルドマスターらしい態度を取っていただけるのであれば、私もそれらしい態度で臨ませてもらうつもりですよ」
「そうかい。ということでさっきのは冗談だ。悪いなアスマよ」
「え? あ、いや、どれが、ですか?」
「回復薬うんぬんのくだりが、だ。これからスキルを見せてもらうってのは本当だが、苦痛やら損傷が条件の能力を見せろとはさすがに言わねぇよ」
「…何故にそのような冗談を?」
「お前がそうやって妙に畏まった態度取ってっからだよ。普通にしてりゃいいんだよ。むず痒くて仕方ねぇ」
「…はぁ。じゃ、まぁ、そうしますわ」
「おう、そうしろそうしろ。ギルドマスターだなんだっつっても俺は所詮冒険者上がりの平民だ。他にやるやつがいなかったからって理由でこんなやりたくもねぇ役職に就かされてるだけだからな。その辺のおっさんを相手にするのと同じように接してくれ」
「さすがにそれは無理だけど、善処は、する」
「はっ、それでいい。んじゃ、行くぞ」
何かノリの軽いおっさんだな。
まぁ、こっちの方が俺も気楽だし変に気を使うのは止めることにしよう。
ギルドマスターの執務室を出て一度受付まで戻った後、待ち合いスペースのような場所の奥にある通路から訓練所へと向かった。
訓練所に入ると、中には四人の人が居た。
一人の教官が三人の生徒に教鞭をとっているのだろうということが分かったが、よく見るとその教官役の人は見たことがあった。
あの人、たぶん前に外の訓練場で見た人だよな。たしか、一人で型の稽古をしてた凄い動きの人だ。
そっか教官だったのか。
「おい、ゲイン」
ギルドマスターが声を掛けると、教官・ゲインさんが三人の生徒に軽く指示を出したあと、こちらに駆け寄ってくる。
「グランツさん。ここに来るなんて珍しいですね、どうしました?」
「おう。手ぇ止めさせて悪いな。ちょっと興味深いやつを見つけてな。今からそいつの力を試そうと思うからよ、ちょっとやかましくなるかもしれんが許してくれ」
「ええ構いませんよ。それにしてもグランツさんが興味を持つほどの人物ですか。その力試し、私も同席してもよろしいでしょうか?」
「別に構わんが、あいつらはいいのか?」
「はい。今は集中力を養わせるために瞑想をさせているところなので」
「ならいい。ほんじゃアスマ早速始めるぞ」
「うぃっす」
「今試せるスキルは抗う意志と、戦士の咆哮か。ならまずは戦士の咆哮から試してもらうが、その前にどれほど筋力が強化されるか比較するために少し打ち込んでもらうとするか」
そう言うとグランツさんは壁際に立て掛けてある木剣を二本持ってきて片方を俺に手渡してきた。
「よし、こい」
「うっす」
いつも使ってる小剣より少し長いから距離感が変わるけど、木製の分重量は軽いし、まぁなんとかなるか。
よし、じゃあ今後のために無様なところを見せるわけにもいかないし、ちょっと張り切っていっちゃおうかな。
いくぞ。
床を全力で蹴りつけ姿勢を低くし、一気にグランツとの距離を詰める。
間合いに入ったところで速さを重視した横薙ぎを放つ。
が、それはなんなく受けられ、木剣同士がぶつかった小気味良い音が訓練所に響く。
流れた体勢から一歩相手側へと踏み込むことにより、距離を詰めつつ体勢を持ち直し、下段からの斬り上げを放つ。
これも受け止められるが、そこから更に上段へと構えを切り返し、体重を乗せた一撃を打ち込む。
先程までよりも激しくぶつかり合った木剣が乾いた高音を響かせるが、こっちが全力で打ち込んだにもかかわらずまるでびくともせずに、グランツは木剣を緩く構えている。
だが、まだ俺の剣は止まらない。
受け止められた剣の刃を滑らせることで得た推進力を利用して体を回転させ、遠心力を乗せた袈裟斬りを叩き込む。
それを受け止められても、もう一度体を逆回転させ、遠心力を乗せた逆袈裟斬りを叩き込む。
その後も何度か斬撃を叩き込んだが、どの一撃もたやすく受け止められ続けた。
「よし。大体分かった。じゃあ戦士の咆哮を発動させてもう一度今と同じ動きで打ち込んでこい」
「あいよ」
じゃあ早速、スキルを発動…って自分の意志でスキルを発動させたことがないからやり方なんて分からんのですが。
あー、確かスキルの説明欄には咆哮を上げることによりうんたらって書いてあったと思うから、スキルを発動させるつもりで叫べば発動したりするのかな。
まぁ、何事も実践あるのみってやつだ。やってみよう。
「すぅー。おおおぉぉっっ!!」
『アクティブスキル《戦士の咆哮》発動』
うぉ!?発動できた…けど、何だ今の声?…いや、そういえば今までにも何度かこの声聞いた覚えがあるような気がするぞ。
何だろう。スキルには音声ガイドさんでも標準搭載されてるんだろうか。
分かりやすくていいけど、本当謎仕様だな。
まぁとにかく発動自体はできたし、さっきの続きといきますかね。
「よし、もういいぞ」
「おっす。どうでした?」
「あぁ、かなり威力が向上してたな。自分でも感じたんじゃないか?」
「まぁ、確かに元から軽かった木剣がもっと軽く感じたし、踏み込む速度も目に見えて速くなってたとは思うけど、グランツさんがあんまりにも簡単に受け止めるからただの自意識過剰かもって思ってました」
「そりゃ、俺から見れば仮にレベル1がレベル10になったとしても大して変わらないからな。違いは分かるがその程度としか認識はできん。だが、同レベル帯の人間からしたら堪ったもんじゃねぇだろうな」
「なるほど、それぐらいの効果は期待できるってことか」
「あぁ。ただ、レベルが上がらねぇとなるとステータスの底上げで普段使えるスキルがこれだけしかねぇってのはちょっと厳しいな。せめて一通り能力値を上げるスキルが揃ってればいい線いけそうなんだがな」
「…あー、たぶんなんですけど、スキルって条件を満たせば増やせる、と思うんだよね」
「何故そんなことが分かる?」
「いや、勘、というか、推測、というか、この力を持ってる俺だからこそ分かるっていうか」
元の世界のゲーム知識とは言えないし、言ったところで通じるとは思えないから説明が難しいな。
「ふむ。まぁ、仮にそうだったとして、その条件ってやつが何なのか分かるのか?」
「それは全く分からないかな。正直戦闘をこなしていけば勝手に覚えていくんじゃないかと勝手に思ってたんだけど」
「そうか。ならそれは追い追い考えるとして、今はもう一つのスキルの検証をしようじゃねぇか」
「そうっすね。でも精神異常耐性の効果を見るのならそういう魔術を使える人が必要なんじゃ?」
「そのためにテレサに付いてきてもらったんだよ。んじゃテレサ頼む」
テレサさん、受付なのに魔術とか使えるんだ。
まぁ、別に使えてもおかしくはない、のか?
いいか、別に。これで検証ができるわけだし。
「分かりました。それではアスマさんには今から恐怖の異常状態になる魔術・フィアーをお掛けしますので、心の準備はよろしいですか?」
「まぁ、準備したところで何が変わるとも思えないし、どうぞ」
「では、《フィアー》」
テレサさんが魔術を発動させた直後、一瞬視界が黒い霧のようなものに覆われたような気がしたが、それはすぐに晴れその後も特に何かが変わったような気はしない。
「…えっと。効いてないっぽいですね」
「そのようですね。普通レベル1の抵抗力で私の魔術がレジストできるわけがないんですが、これがスキルですか。素晴らしいです」
「はっ、テレサの魔術に耐えるかよ。やるじゃねぇか」
「あざっす」
まぁ、俺は何もしてないんだけどな。
何もしてないのに褒められるとむずむずするわ。
「では、もう一度試してみてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。今度は本気でいきますので」
本気?…何かまずい気がしてきたんだけど大丈夫かな?
まぁ、一度防いでるし二度目もなんとか…。
「《フィアー》」
…!? 何だ? 何が起きた? 急に視界が真っ暗になったぞ?
心臓の鼓動が激しく脈をうっている。
俺は? 何を?…………
目が覚めるとベッドの上だった。
どうやら俺はテレサさんの二度目の魔術を受けた直後に恐怖のあまり気絶してしまったらしい。
少ししても目を覚まさなかった俺をミリオは背負って連れて帰ってきてくれたみたいだ。
…何してくれてんだあの受付。




