衝動18
「あー、薄々そんな感じはしてたけどやっぱりそういうことなんですね」
この世界の住人は日々魔物の脅威に晒されながら生活を送っているだけあって一般人でもそれなりに戦闘能力を持ち合わせているので、たとえば下級の魔物が現れた程度なら自分たちで対処してしまうそうだし、森へと足を踏み入れて果実や薬草などを採取したりすることも日常茶飯事だそうだ。
じゃあそんな人たちがなけなしの資金を捻出してまで人に助けを求めるとしたらそれはどんな場合かというと、自分たちだけでは手に負えないような魔物が近隣に出現しそれにより村に被害が及んだことで助けを求めざるを得なくなった場合や、何かしらの目的があって危険の予想される場所へと赴く際の護衛としてこちらを雇う場合など、軽く考えただけでも二つの候補がすぐに思いつく。
だが、そのどちらの場合であったとしても結局は魔物との戦闘を避けることは出来ないだろう。それも、ある程度の強さを持った魔物との戦闘をだ。
「ええ。言い方は悪くなりますが規定の依頼料さえ払っていただけるのであればどのように些細な依頼であろうともこちらの持てる限りの人材を派遣させていただくのですが、最低限の依頼料しか支払っていただけないのであればこちらが出せる人材も下級の者のみとなってしまうんですよ」
それについては仕方のないことだろう。冒険者ギルドというのは王国が運営している一組織なのであって、正義の味方が集まって結成した訳でもなければ、聖人のような者が集まっているという訳でもない。
依頼料にも明確な規定が存在していてそれを支払えなければ助けを寄越すことが出来ないのだとしても、それを受け取る対価としてこちらは危険を冒すことになるのだからそこは納得してもらうしかないだろう。
「そして更にその中である程度の戦闘能力を有している者に低報酬で危険な任務を受けてもらうことになるので中々適任が見つからないんですよ」
「まぁそりゃあ好き好んでそんな任務を受けようなんて奇特な人なんてめったにいないでしょうしね」
「そうですね。ですが、今回アスマ君にはそういった類いの任務を受けていただくことになりますのでそのつもりで覚悟を決めておいてください」
「……うっす」
その後もゲインさんからいくつかの注意事項などを伝えられたあと、俺とクレアは一度家へ帰り日が沈んだ頃に再度ギルドに戻ってくるように言い含められ、その場を後にすることとなった。
その時に後ろでは気絶していたザックがギルド内にある救護室に運ばれることになったようだが、それについて俺は悪いことをしたとはまるで思っていないので完全に無視を決め込み、ギルドから出るとそのまま帰路へ着いた。




